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第17話 真衣の罠にハマってしまった……

 つまり……真衣がとても怒っていることは間違いない。


 


 そこで鈍っていた俺の理性がようやく駆動する。




 この状況は客観的に見てマズすぎはしないかと……。




 真衣のような美少女……それも有名な元アイドル……が、俺のような陰キャボッチの部屋にいる。


 


 そして、その美少女に陰キャボッチの俺が馬乗りになって、両手で胸を鷲掴みにしている。


 


 ……完全に事件が発生している。


 


 というか、真衣が俺のことを告発したら、俺は間違いなくおしまいである。


 


 むろん……実際は、今こうなっているのは単なる事故であり、不可抗力である。


 


 が……俺がいくらそう言っても誰も信じてくれないだろう。


 


 俺だって、逆の立場だったら信じないだろう。




「ゆ、唯……い、いつまで……こうしているの?」


 


 真衣の声で、俺はようやく我に帰り、飛び上がらんばかりに立ち上がる。




「ご、ごめん……そのわざとじゃ——」




「ゆ、唯!」




「え……は、はい!」




「き、今日は……こ、これくらいにしましょう。わ、わたしも……今日はまだ下着が……い、いえ準備が……で、でも唯の気持ちはよくわかったわ」


 


 真衣は立ち上がりながら、倒れた際に乱れた制服をなおしながらそう言う。


 


 真衣は意外なほどに冷静だった。


 


 ひょっとしたら、真衣もこれが俺の悪意ではなく、偶発的な事故だとわかってくれたのかもしれない。


 


 俺は一瞬そんな淡い期待を抱いた。


 


 だが、次の瞬間俺のその楽観的な希望は粉々に打ち砕かれることになった。


 


 それは真衣の表情である。




 その頬は未だに赤かったが、真衣は、笑顔を隠せないといった様子でとてもうれしそうにしていたのだ。




 俺は真衣のそのニンマリとした表情を見て、全てを悟ってしまった。




 最悪だ……これが真衣の真の目的だったのだ……と。


 


 あの朝の出来事……俺に抱きついてきたこと、そして昼の旧校舎での振る舞い、そして、突然の俺の家への来訪……。


 


 全てはこのための布石だったのだ。


 


 つまり……二人っきりになって、真衣の美貌に惑わされた俺に行動を起こさせる……。


 


 いやたとえ、事が起こらなくとも、二人っきりの状況を作ってしまえば、あとは真衣の証言次第でいかようにでもなる。


 


 俺は見事に真衣の罠にハマってしまった。


 


 俺はこれから起こることを想像して背筋が冷たくなってしまった。


 


 真衣はこれから自分の親や教師に先程の出来事を告発するつもりだろう。


 


 いや……そのことを材料に俺のことを脅迫して奴隷のようにこき使う気か……。


 


 どちらにせよ俺にとっては悪夢のようなシナリオである。




 俺は……いったいどうなってしまうのか。


 


 よくて退学……悪ければ犯罪者か……。


 


 いやはたまた真衣の下僕か……。


 


「待ってくれ……真衣……話はまだ……」


 


 俺は声を震わせながら、すがるように真衣に声をかける。


 


 が、真衣は完全に勝ち誇った顔で、


 


「あせらないで……唯。続きはまた……明日にしましょう。フフフ……」


 


 と、あいかわらず顔を赤らめたまま微笑んでいる。


 


 どこか興奮しているようにすら見える。


 


 そんなに俺が罠に落ちて動揺している様子が面白いのか……。




 実際、その真衣の笑顔は俺が今まで見たこともないほどに嬉しそうな表情だった。


 


 何も知らぬ者であれば、絶世の美少女にまばゆい笑顔を向けられて、心が浮き立つのかもしれない。




 が……俺は違う。




 俺は女性の……真衣の本性を知っている。




 だから、真衣のその笑顔は俺にとっては不気味なものでしかなかった。




 俺は思わず戦慄した。




 真衣は、目的を果たし満足しきった顔を浮かべたまま、俺の家から出ていってしまう。


 


 俺はガクリと肩を落として、ただ真衣の背中を見つめることしかできなかった。


 


 俺はしばし玄関の前で、呆然と立ち尽くすのだった。

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