29話 ゲロ臭朝方フィーバー
「アンタ、ナニガアッタノ」
ぶーーーーーーーん!
と、やかましいえんじんおんをひびかせるくるまのなかで、みずまぜこむぎちゃんがいった。
「なにがって、なにが?」
「ソノスガタ。マサカウマレツキジャナイデショウ?」
しつもんしながらも、みずまぜこむぎちゃんはまっすぐと、しんろほうこうをみている。
いつのまにかそとにはたてものがたちならび、かべやじめん、うえきにほうちされたごみやよごれが、のこりがのように、たべものたちのそんざいをつたえている。
きたないまちを、あさひがうすくてらしていた。
「このしゃびしゃび?すいぶんかただよね。わるいめろんにまぜられちゃったのさ」
なまはむちゃんはげんきにやってるかな。あのめろんやろうにまぜられたぼくをしんぱいしてよるもねむれないんじゃないかな。
ほんとう、なんてことしてくれたんだめろんめ。
「ソウ」とだけつぶやいて、みずまぜこむぎちゃんはぶれーきをふんだ。
がたん。くるまがゆれる。かのじょのうんてんはていねいとはいえなかった。
『ほっとぼにと』
かんばんにかいてあるのはこのおみせのなまえかな?
「アサニタベモノガタクサンイルトコロナンテ、ココクライ」
はいると、
「うっ……!」
すっごいくさい!このにおいは……
「ゲロノニオイダナ……サイアク……」
としゃぶつのにをい……だと!?
ぼくたちたべものにとって、“ふはい”とはもっともおそろしいげんしょうのひとつ。としゃぶつはほとんどそれとおなじだ。
「ここでは、“おうと”がおこなわれているのか……!?」
うすぐらいくうかんをてらすたしょくはっこうらいとをみて、ぼくはりかいしたよ!
「ここ『ないとくらぶ』か……なるほどたしかに、あさたべものがおおいのはここだね」
でぃーじぇーがちぇけらしてそうなつくえがさいおうにはいちされたひろま。だんすふろあにはたくさんのたべものがしきつめられるみたいにたおれていて、ときおりくるしそうなうめきごえがきこえる。
「チョットチアンワルスギジャナイカ?」
「ぼくきらいなんだよ、ないとくらぶってやつは。なんどもなんどもぼくをできんにしやがって!」
おもいだすよ。
きゃばくらできゃすとのしどうをするまえに、ひとあせかいてこうとおもってないとくらぶでおどることにしたあのひを。
「おいしそうなおどりをおどってるおんなのこをぼくのとりこにしていただけなのにおいだすなんて」
「タブンダガ、ワルイノハオマエナンダロウナ」
「まったく、めろんくんもそうだけどさ、このてのおみせのれんちゅうはどうもしっとぶかいらしい。どうせまともなしょくせいおくれないからこんなとこではたらいてるくせにさ!」
「オマエマジカ?ショクギョウサベツモスルノカ?オマエ?」
「アルルエぇ?」
どこかからはげしいまきじたをふくむきたないこえがひびいた。
「何でこの店に薄汚ぇ水混ぜ食品のカスがいるんだァ?」
おみせのみぎおく、といれとおもわれるそのとびらからおとこがあらわれた。
そのうしろからいっぴん、またいっぴんとたべものがあらわれ、いつのまにかぼくたちはかこまれていた。
「あれ、どったの欧風カレーちゃん」
「おー、ステーキソース。なんか変なのおってさ」
「うーわ笑。水混ぜ食品じゃんキッショ。萎えるわ」
ばりぞうごんならべたてるたべものたち。ちら、とよこをみるとみずまぜこむぎちゃんは、
「ア、アワ、アワワ……ソウサクブツニトウジョウスルテンケイテキナヤンキーパーティーピーポー……アワ、アワワワワ……ホントニイタンダパティピポ……」
……と、めちゃびびっていた。
まったくせわのやける。ぼくはいっぽまえへでた。ゆびをぽきぽきならす。
「あー、きれそう。ぼくをいらいらさせないほうがいいよぉ?ただでさえ、ないとくらぶのいやなきおくがよみがえってきてるんだからさ!」
さけんでやると、やつらはおどろいたようにうごき、そしてわるぐちをとめた。はんこうされるとおもわなかったみたいだ。
「げろくさいおまえたちはもはやくさったたべものだ。ころしてやるよぞんびめしども!」
「んだテメェ!」
おうふうかれーがわめく。まったく、げろめしのこえはきくにたえない。ぼくのようにびせいをもってうまれてこれなかったことはかわいそうだけど。
まあしかたないね。かれはかみにあいされなかったみたい。
つまり、かみにあいされたぼくにはかてないってこった。




