18話 完成
「おい、起きろ」
頬を叩かれ、おこめくん……否、水混ぜご飯くんは目を覚ました。
何日眠っていたのだろう。陽の光が穿いて、瞳にジワと痛みを感じた。
「んん……きみは?」
「俺だバカ。寝ぼけてんな」
光に滲んだ視界が晴れて、馴染みの顔が姿を現した。
「ちゃーはんくん……」
「よお、随分やられたな」
「…………」
己の身体を見やり、水混ぜご飯くんはため息をついた。
「ぼくはみずまぜごはんくん。いつか、おいしいおんなのことおなじちゃわんにはいるのがゆめ」
いつもの彼の自己紹介にも、心なしか力がなかった。それもそうだろう。彼の心には闇がかかっている。光の届かない海の底のような、深い闇が。
「落ち込んでるとこ悪いが、お前にはもっと落ち込んでもらわないといかん」
「なに?」
「水混ぜご飯、お前な……もう茶碗入りは無理だ」
「え……」
彼の心を、切り裂くような痛みが走った。
薄らと、心の奥で分かっていた。めろんくんに敗北し水混ぜご飯となった彼は、もうこれ以上別の食べ物になることはない。
「水混ぜご飯、お前は“完成”してしまったんだ」
故に、どんなに美味しい女の子がいたとしても結婚……茶碗入りはできないのだ。
「そんな……そんなことって……」
「残念だったな。せいせいするよ、テメェのようなバカなライバルが消えて」
「う……うう……うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「おっおい水混ぜご飯!!」
「その名で呼ぶな!僕はおこめなんだ!どんな食べ物とも合う最高の食材なんだ!ラーメンか餃子、麻婆豆腐としか合わないような炒飯が話しかけるんじゃない!死ね!」
「言い過ぎだろ!」
「うるさい!」
「待て水混ぜご飯!水混ぜご飯にも水混ぜご飯なりの生き方ってやつがなぁ……」
「連呼するな!この僕をバカにしてるな!ちくしょーーーー!!!!!!」
ちゃーはんくんの言葉に耳を貸すこともなく、水混ぜご飯くんはどこかへ去っていってしまった。
「あのバカ……ライバルの情けで助けてやったってのに恩を知らん奴……」
あざます
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