11話 のりちゃん追跡者
「おいおこめ!テメェなんでこんな朝っぱらから煎餅屋さんに居やがるんだ!」
「きみこそ!どうしてあさから!」
ぼくらふたりはきいろぱぷりかちゃんのせんべいやからにげだし、しょうてんがいをはしっていた。
「朝はウォーキングするのが日課なんだよ!」
「そうなんだね!ぼくはいえでのりちゃんにおそわれて、せんべいやににげこんだんだ!そしたらきいろぱぷりかちゃんも『らいす・おぶ・らいふ』のかんぶで……!」
「ちょ、ちょちょっと待て!情報量が多いって!」
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「つまり、のりちゃんときいろぱぷりかちゃんがお前を勝手に調理しようとしている……と」
「そうみたい」
ぼくたちはしょうてんがいからでてすうじっぷんはしり、いまはひとめのつかないろじうらにいる。
ふたりともつかれからかるくいきぎれをしている。
「どうして拒む?さっさとおにぎりにでも煎餅にでもなってしまえばいいだろう?」
「きみはばかなのか?」
「テメェ……!」
ざんねんながら、めのまえのおとこはざんねんなあたまをしているようだ。
ぼくがなぜちょうりされることをいやがっているのかわからないらしい。まったく、これだから『ひもて』は。
「ぼくはね、ちゃーはんくん。ぼくはおんなのことちゃわんにはいりたいんだよ」
だからおにぎりやせんべいになりたくないというわけ。だってそのふたつはちゃわんにはいらないから。
「待て。お前この前ラーメンちゃんを口説こうとしていたろう」
「げっ……!」
ばれてしまう!ぼくのことばに『むじゅん』があることが、ばれてしまう!
「ら、らーめんだってちゃわんにはいることはあるさ……」
そういうとちゃーはんくんはくびをかしげつつも、なっとくしたようだった。
あ、あぶなかった!ぼくがしんのないおこめだとおもわれるところだった!
「まぁいい。俺も自らの意思と関係なく調理などされたくはない。だが、俺には関係の無いことだ。さっきは反射的に助けてしまったが、ここまでだ」
「じゃあな」といってちゃーはんくんはぼくにせをむけあるきだした。
「まって!ぼくをたすけて!」
「やめろ!触るな!おこめテメェ俺のパラパラボディに白米が混ざるだろうが!」
「はなれないっ!ぼくをたすけるというまでは、はなれないっ!」
「わかった!わかったから離れろクソ米野郎!」
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「ぱりりっ……この辺りにおこめくんの香りが。白米の薄い香りすら嗅ぎつけるワタシの嗅覚を甘く見ましたねぇ?」
昼前の繁華街にはまだ食べ物が少ない。赤い柱が特徴的な建物群を、のりちゃんは通り抜けていった。
まだ真上に着いていない太陽が、やや斜めの角度からのりちゃんに長方形の影を作らせた。
のりちゃんは海で育った。ワカメたちと暮らしていくうちに、自分はワカメではないことに気づく。
友人らと同じ道に進めるはずと思っていた彼女は絶望した。しかし、彼女を責めるものはいなかった。
ただ一人、のりちゃん本人を除いて。
彼女は自分を否定した。否定し、痺れ、瞬き、そして『ライス・オブ・ライフ』に出会った。
『ライス・オブ・ライフ』は米を調理する気持ちを抑えられない者たちの秘密結社だ。彼女はうってつけだった。
初めは彼女も調理の材料として狙われた。しかし追われるうちに、自らも米料理に惹かれていった。
そして海苔を使用した料理『おにぎり』に出会う。彼女は自らを追う軍艦巻きくんを倒し、組織の一員へとなったのだ。
ちなみに『ライス・オブ・ライフ』のメンバーは基本的に仲が悪い。皆自分の調理法が一番美味しいと信じているのだ。
「ぱりりっ……香りが近づいている。この辺りですねぇ」
「ようのりちゃん!」
のりちゃんの背後から元気な声がした。
振り向く。
「自ら顔を出すとは、いい心掛けです。おにぎりになっていただけます……ね……!?」
彼女の背後に立っていたのは、純白の粒。艶やかな楕円であるはずだった。
「な……に……!?」
しかしそこにいたのは黄色く、僅かに焦げた、具材すら入っている食べ物。
炒飯だったのだ。
「へっ!ちゃーはんにちょうりしてもらったぜ!ばーーーか!!これでおにぎりにはなれないぜ!」
ありがとうございました




