表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

地獄への旅行

 ⑴


 時空の裂け目が発見されたのは、凡そ1年前のこと。

 で、好奇心からか何なのか、発見した科学者が裂け目に入ってみたら、辿り着いた先は地獄だった、というわけ。


 それを知った商売気たっぷりな人が、地獄に行くツアー(団体旅行)を思いついて、科学者と交渉して実現させてしまった。

 俺がそのツアーを利用すると決めた時には、既にルートは素晴らしく整備され、利用者も多く安心安全なものとなっていた。




 ⑵


 ツアー当日、俺を含むツアー参加者は、添乗員に連れられて小さな駅まで歩かされた。駅構内には、牽引(けんいん)車と客車の、二両編成のトロッコ列車が既に待機しているようだ。

 客車は、布製の(ほろ)がかかっているが、それ以外はむき出しで、遊園地のちゃっちい乗り物にしか見えない。


「こんなんで、本当に地獄へ行けるのかね?」

 俺の前に座っている高齢の男性が、怪訝(けげん)そうに(つぶや)いた。

「観光には向いてますわね」

 俺の隣に腰掛けた美熟女が愛想よく答える。


 出発の合図のベルが鳴り、ツアー参加者の期待と不安を乗せて、列車は動き出した。

 時速15キロくらいだろうか、ノロノロ走り始めた列車は、直ぐに速度を上げて、あっという間に現世とおさらばした。

 光り輝く裂け目にスーッと飲み込まれた瞬間、あたりは暗闇に包まれた。




 ⑶


「なんだか暑いですわね」

 美熟女が言う。

 たしかに、暗闇を抜けたら暑くなってきたようだ。もうもうとした蒸気が出ているせいだろうか。

 その蒸気の先に、何かが(うごめ)いている。

「あれは……?」

 俺は窓から身を乗り出して、目をすがめる。


 それは、牛の頭に人間の体という化け物たちが鞭を振るっている姿だった。傍らでは、大勢の裸の男女が這いつくばるようにしてシャベルで地面を掘り、石炭のような黒い物体をかき集めている。

 時折、ピシッという音が響いて、うめき声が聞こえる。どうやら、少しでも手を休める人間がいたら、化け物たちが鞭で殴るようだ。


 添乗員の楽しげな解説が流れてくる。

「現世で色欲に溺れた人間は、ここで地獄の動力源となって、昼夜分たず働き続けなくてはなりません。ま、地獄に昼夜はございませんが」

 美熟女が「まあ!」と言って、美しい顔を歪めた。


 列車が更に進むと、プシューという音と共に生臭い匂いが漂ってきた。

 添乗員は、さっきより暗いトーンで言う。

大叫喚(だいきょうかん)地獄。現世で殺人を犯した人間は、ここで拷問を受けなくてはなりません」


 前方から悲鳴が上がり、あっと思う間もなく、俺の体は大量の液体でずぶ濡れになっていた。

「ひっ!」

 思わず悲鳴が漏れた。

 なぜなら俺の体を濡らしているのは、大量の血だったからだ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ