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クロデ組合不動産  作者: いぬよし
84/86

第84話 静流 切ります

ズイズイズッ

    チュウチュウチュウチ


コロバシ


 静流と樹が二人で引き上げた鈴の身体はぽぽ全身が壺から引き上げられていた。

 それなのに鈴に壺からの澱みが絡みついて離れない。壺の内側の世界が鈴にしがみついてくる。

 それどころか、壺の内側の禍々しいモノたちが、鈴と壺の絡まりを手掛かりに逆流してこようとする気配がしている。


イドノマワリデオチャワンカイタノ カイタノ カイタノ

   

 向こうの世界がこっちに流れ込むのを止めなきゃ。

 世界を分断する。

 防ぐ。

 ふたぐ。   

 蓋。

 蓋をしなきゃ。


 蓋はどこ?


 静流さんは今日はラスタ。

 

 ああ、蓋はあのいつものボディバッグの中だ。


チャツボニオワレテレテレテテ

  チュウチュウチュウチュウ


 どうしよう、お母さん。

 

 樹が胸の中で母に助けを求めた。

 

 あ母さん。


 お母さん

 キョウコ

 クロデの名前

 鏡子キョウコ

 鏡

 カッパの皿

 代わりの蓋


 全てが一瞬で繋がる

 

 鏡だ!


      ダアレ ダアレ


チャツボニオワレテ チャツボ

      

    ウシロノショウメンダ


ニオワレレレレテレテテ チャチャチャツボ ツボ


 樹は一番近くの壁から鏡を掴み取る。

 まだモヤモヤと不浄なモノが壺から這い出して鈴にまとわりつくその壺の蓋に置く。


ウシロノショウメン

      ダアレダアレダア


 蓋は閉まった?


 いや。締まりきっていない。


 壺と蓋の間の隙間が閉じ切らない。

 鈴を伝って戻り来ようとするモノが鈴を離さない。

 壺の蓋を閉めさせない。


 どうする?

 樹は両手を使って壺の蓋がなんとか閉まらないかと力を入れる。

 その目に飛び込む輝くクロデの三器。


 「静流さん、剣。クロデの剣を取って。

 剣で断ち切って。」

 樹は鏡を押さえたまま静流に告げる。


 わかった

 鈴から手を離すと、鈴の身体か膝くらいまで引き戻される。

 ダメだ。

 今は鈴に気を取られている場合ではない

 樹は懸命に鏡を押さえている。


ウシロノウシロノウシロノショウメン

   チュウチュウチュウチュ

   ダアレ

 静流は深く鼻から息を吸って、できる限りココロを落ち着けると、鏡の上に手をかざす。

 来い

 来い

 来い!


チャツボチャツボチャツボニオ

 

 かしゃん、と、手に物質的な重みが加わる。

 静流はそれを両手でしっかり握ると、壺の中の何かを目掛けて、エイと渾身の気合で刀を振り下ろした。


 壺の向こうから引かれる力が弱まって、その反動で、鈴の全身が、ずるっと壺から現れて床に転がった。

 樹が間髪入れず、鏡をぴたりと壺の口に被せる


 トッビンシャン 

 ヌケタラ ドンドコショ


 耳元で大音量で童歌が響いた。樹は思わず耳を抑えたが、音はそのまま嘘のようにぴたりと止んだ。


 いきなりの静寂。

 

 静流が心配な顔つきで、鈴を揺すりながら声をかけている。

 鈴はぐったりとしたまま、応える様子がない。

 意識を失っているらしい。

 でも、大丈夫。

 鈴の命に別状はない。

 危機は去った。

 説明することはできないが、樹はそれを確信していた。


 空気はまだ濁りを含みながらも、剣呑さがぐっと減っている。

 生臭い匂いも薄まり、深く息をしても耐えられる程度に回復した。


 はあ、と、樹は尻餅もついた。


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