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第77話 バスの中です
バスが動き出すと、心なしか童歌のボリュームが大きくなるような気がする。
なんだ?レーダーか?
お約束に従うならば、音が大きくなる方に鈴ちゃんがいる。そういう判断でいいのだろうか?
バスが向かっているのはクロデ不動産方面。ということは、まだ、鈴ちゃんは家にいる?
ガン
と音の衝撃を受ける。
眩暈に似た音の影響を振り払うよう首を振って、樹は慌てて急に歌を大きく聞こえさせたものを探した。
バスの窓から見える範囲をキョロキョロ見回す。街行く人々の顔のなかに鈴ちゃんはいない。
すれ違うバス。
その中に、あれ、あれがそうかも。鈴ちゃん?鈴ちゃんじゃない?鈴ちゃんだよね。
向こう側から鈴が、バスの窓に両手をつけて、意外そうな顔、どんぐり眼で樹を見ている。
目が合ったように、樹には思われた。そして、同時に樹は、ひっ、と息を飲む。
手が、
窓から見える鈴ちゃんの右手が真っ黒。




