第54話 手が染まります
静流は樹のスマホの連絡先を自分のスマホに入力した。じゃあ、後で送るから読んでみて、と言ってから、「伝承を読んでもらうとわかるんだけど、伝承にも書かれていることが現実にも起きているんだ。
クロデの一族の者には、実際、なんていうのかな、心が闇に近づいた、っていうのかな、簡単に言うと穢れたっていう感じなのかもしれないけど、そういう人の手が黒く染まっているように見える。
手が黒く見えるからって、その全員が、悪人とか犯罪者じゃないからね。欲や憎しみ、不安、でも染まる。共通するのは心が病んでるってことだと思うんだ。あと、黒く染まるタイミングもまちまちで、いつのまにかゆっくりの場合もあり、いきなり一気に発動する場合もある。
なんかその辺りは、まだまだわからないことが多くてさ。公ではない血筋の話だから、一般的な研究対象にはなってないし。また.そうならないように一族は潜んで暮らしてるわけなんだけどね。
誰かクロデの一族で、そういうの研究してから学者が現れるといいのに。
すまん。また、話がわき道にそれて、鈴が嫌そうな顔してるな。
とにかく、クロデの血筋の者には、訳ありで黒い手をしている者が見える。では、クロデの血筋であれば全員見えるか、というとそうでもない。クロデの血であっても見える人もいるし、見えない人もいる。
オレが初めてあったとき、樹ちゃんの指先が黒く染まっていたね。」
そう言われて、そうだ、あの沈んでいた時期、どうして指先が汚れているんだろう、と自分でも度々思っていたことを樹は思い出す。
「それに樹ちゃんは、鈴の指先が時折黒くなってるのも見ている。」
静流の言葉に鈴は思わず腕組みをして手を隠した。
「遅いよ、鈴。今日も指先が黒いよ。オレも見てる。てことは、樹ちゃんも見てる。」と、無駄な足掻きだと、静流は鈴に告げた。
「指先が少し染まってるくらいなら、そんなに時間をかけずにクロデの三器で鎮めることができるんだ。
でも、オレが小学校の時、指の根本まで染まったときは結構厄介だった。朝晩、クロデの鏡の前に座り、オヤジとの約束を破ったことを反省し、友達を恨んだことを反省する毎日が続いた。
小学校で、ぼっちになったのも自業自得。
小学生ながら、じっくり自分の生き方を考える時間になった。そうして反省を繰り返すと、時間はかかったけど、指の色は少しずつ薄くなった。
そりゃあ子どもだから、たまに、面白くない気持ちになることもある。そうすると、オレの場合はみるみる黒い色が戻ってくるんだ。薄めるのは思った以上に時間がかかる。染まるのはあっという間だった。
指から色が消えるのに、一年以上かかった。
それでも、色が消えた時にはホッとした。
伝承にもあるように、両手が手ぶくろを付けてるみたいに、手首まで真っ黒に染まったときは、この世界で生きていくことは期待できないと言われてもいるからだ。」
静流派一旦話を切って、紅茶を飲んだ。
鈴は腕組みをして指先を隠したまま、飲み物にも食べ物にも手をつけようとしない。
「オレはそんなにたくさんクロデの人間に会ったわけではないけど、それでも本家の人間としてそれなりに会ってる。
もう樹ちゃんは気づいたかもしれないけど、オレはもう一つクロデの仕事を引き受けてる。〈鎮め〉だ。ここの組合本家の主な仕事は壺の設置と監視、そして鎮め。
クロデの一族は、伝承がどう関わっているかは置いといて、災いに魅入られやすいのは事実みたいだ。だから、組合みたいなのを作って、お互いを救済し合ってるんだ。
うちの技は三器から剣を抜けること。剣が抜ける人間は一族の誰かが助けを求めたら、鎮めに行くんだよ。」
鈴は兄の言葉に無意識に唇を尖らせた。鈴は鏡の線など見えない。剣も抜けない。




