第3話 助け合いの組合みたいです
待って待って、足りない足りない。と、樹には、まだ、クロテ組合の情報が足りなさすぎる。そういう家系の組合だというのはわかった。
だが、どうして、そこに自分がバイト兼住み込みみたいな
流れになるのかが、樹には全く理解できない。
そう彼女が訴えると。
「お母さんも、そのクロデ組合とやらをおじいちゃんにいきなり聞かされたときにね、聞くだ怪しげじゃない?すぐにするりと胸に入ってきたわけじゃないんだけどね、」と、母の語りのターンが再開した。「実はおじいちゃんが婿入りしたのも、単に家の名前を絶やさないって言うより、その力の注意喚起のために名前を受け継ごうという考えがあったみたい。そうした考えが組合にあるのよ。同じような、クロとかテとか、デが使われたに名前の人がいたら、それとなく組合の人か確かめやすいでしょ?、
そうそう、組合には、黒手さんとか空手と書いてクロテさんとかもいたなあ。」
母親が組合構成員の苗字に言及し始めたので、そこはカットして、いったいその組合の目的ってなんなの、と、樹は訊ねた。
ああ、と、それそれ、と言いながら母親は人差し指を振ると、「自助団体というか、助け会いの組合らしいの。」と、母親は言った。らしい、とは、なんともおぼつかない。
「なんだかね、その力っていうのが、時には災いに向かい、また時には災いを招くこともあるんだって。災いって、なんだかねえ。とにかく、困った時には、クロデ組合の人にしか助けを求められないでしょ?どういう災いかわからないけど。でも、警察にどう説明する?みたいになっちゃうでしよ。だから、説明なく無条件で助け合える人たちで構成されているのが、クロデ組合。」と、母親が説明する。
「これも、その時に覚えておきなさいっておじいちゃんに言われて、慌ててお父さんがメモしてくれたのよね。よかったあ、メモしてもらって。」と、母親が言った。「今ならスマホで録音したよね、絶対。あたし面倒でメモなんかしなかったもの。ちょっと胡散臭いって思ってたしね。」と、母親はわずかに肩をすくめた。
「なんだか、そうした方がいい雰囲気だったからね。」と、当時を思い出すように父親が言った。「それに、実際お父さんから、組合の連絡先を書いて、そこに一応連絡いれるように言われてし。」
「あら、そうだった?」と、覚えてないらしく、母親は意外そうだった。
「そうだよ。だから、おれ本家さんにその時初めて連絡したんだよ。」
と、母に言ったから、樹に向かう。
「組合にね、いくつかのまとまりがあってさ、そのまとめ役を本家って呼んでるんだ。」と、父が説明した。「うちの枝は、さっき話したクロデ不動産のクロデさんが本家だ。」
〈本家〉なんて言葉も身近で初めて聞く、と樹は思った。なんか、名探偵が殺人事件の起きた田舎に行くとあるヤツよね。そして、行った後も、バタバタ人が死んじゃうヤツ。
「元々同じ血筋の人達が連絡を取り合ってたのが組合の始まりだったんだろう。組合への加入は強制的ではない。だが、やはりもしものことを考えて、脱退しない家庭が多い。だから、現在でも組合が続いてるんだと思う。」
そういう父親も、もしもの場合の頼みの綱として組合に継続加入しているのだろう。
「組合と言っても毎月組合費が発生するとかじゃない。昔はね、切手代とか集めたこともあったみたいだけどね。宗教とかでもないから。
今は実はね、ライングループができてる。組合ライン。うちのグループは本家の仕事から〈不動産グループ〉って名前のグループだよ。」
知らなかったことが山ほど出てくる。全て今初めて聞くことだけど、でも、祖先とか本家とかの話の中に、急に組合グループライン、って、調子が狂うなあ、と、樹は苦笑する。
「脱会も自由。去る者は追わず。」と、父親は組合の説明を続ける。「精神は助け合い。困った時はお互い様。まあ、まだうちは、そう言うほどの困った時に陥ったことはないんだけどね。」父親が母親とアイコンタクトを取る。
「そうね、そうそう。」と、母親も父親に同意した。
「ちなみにお母さんには、その能力はございません。」
母親の言葉に樹はなあんだ、と思う。なんか、この、少し慌てん坊でおっちょこちょいではあるが、話好きで明るく親父ギャグを父親以上に多用し、パートをこなしつつ、うまい弁当を作ってくれた母親に、さらに知られざる道の能力があるのかもしれないと、話の流れ的に、樹は少しドキドキしていたのだ。
「おじいちゃんにも、ちなみにおじいちゃんの兄弟にも出てない。その兄弟の子供、お母さんの従兄弟よね、その人たちの中にも気まぐれ注意報みたいなことするような子はいなかった。その子供たちになると、なんかようわからん。
そして、お母さんも、あんたのおじさんの家系にも現れてない。」