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見習い少女は傷だらけ  作者: 空烏 有架(カラクロ/アリカ)
第一幕 ✴︎ ずたぼろ少女の一念発起
7/73

07/「おまえは魔女に向いてない」

 結論から言うと両親にはめちゃくちゃ怒られた。

 親からすれば当然だろう。娘が遅く帰ってきたと思ったら、明らかに何かあったとわかるほど衣服や髪が汚れていたうえ、見知らぬ少年に背負われているという状況では、平静を保てるはずもない。


 アリヤは魔女に弟子入り志願したことについて滔々と説明することになった。

 そして案の定ばっちり反対された。しかしなぜか同席していたセディッカに「明日からはもっと早く帰らせるようにしますので」と言われたとたん、それならまあ、と頷かれた。

 ……いや、おかしい。アリヤにとっては都合がいいが、客観的に見て納得する要素などまったくない。


 ぽかんとしているうちに、セディッカはさっさと帰っていった。

 もう何がなんだか。



 ともかくこの一件以来、何かが変わってしまった。

 主にアリヤが。薬屋に行くたび彼の姿を探してしまい、会えば嬉しくなってしまうし、いなければがっかりしてしまう。

 彼女の変化は相当わかりやすかったので、友人たちは悪い笑顔を浮かべてアリヤに詰め寄った。


「なーにぃアリヤってば、こ・い、しちゃった~?」

「ひぇッ? ……い、いや、そ、そそ、そんな、そういうあれじゃ……!」

「うふふ、照れちゃって。でもいいんじゃないかしら? 前の彼とはまるきり見た目も雰囲気も違うもの。……で、セディッカさんのどこを気に入ったの?」

「もぉ、からかわないでったら~!」


 否定しても顔が紅くてはあまり説得力がない。友人たちにとっては恰好のおもちゃだ。

 それでもアリヤは頑として認めなかったが、それは状況が前回とあまりにも似すぎているからだろう。


 一体この平和なザーイバの街で、どうして自分ばかり、こう何度もおかしな人に出くわすのか――はひとまず置いておいても。ひどい目に遭いかけたところを助けられた、という点がまったく同じだ。

 しかも前より状況は悪い。


 かつて告白しそびれた人とは、たぶん向こうも悪しからず想ってくれていた。そのぬるま湯のような状況に甘えていた。

 アリヤはずっとそのままでいたかったけれど、きっと相手はそうではなかったのだろう。だからもっと積極的な女の子に先を越されて、彼もそちらに応えた。


 で、今回である。言うまでもなくセディッカはアリヤのことが嫌いだ。

 ……いや、さすがにそこまで断言はしなくてもいい気がするけれど、少なくとも好意的に思われてはいない。

 このように頭から不利で無謀とわかっている状況で、素直に好きだと思えるほどアリヤも呑気ではなかった。認めてしまったら傷つくだけだ。


「……せめて、もうちょっと仲良くなりたいな」


 などと窓辺のコウモリをつついてぼやく。


 コウモリはちょっとうるさそうにしながらも、逃げないでじっとぶら下がったままだった。せっかくなので首を撫でてみる。

 犬や猫と違ってあまりかわいくないと思っていたが、見慣れてきたからかだんだん悪くない気がしてきた。意外に眼が大きくて愛嬌のある顔だし、頭のまわりは柔らかい毛がふわふわしているし。

 ところでこの子はいつもいるけれど、魔女のペットなのだろうか。



 ちなみに変化があったのはアリヤだけではない。

 セディッカだ。日中は不在でも夕前になると必ず顔を出すようになり、堂々とアリヤを家まで送るようになった。


 ……おわかりいただけるだろうか。

 それは、アリヤ的にはものすごく困る状況なのだ、と。


 もちろん助かる面もある。

 あんなことがあった以上、もちろん以降は陽が落ちる前に帰ることを徹底しているが、ひとりで帰宅するのはかなり心細い。誰かについてきてもらえるのは非常にありがたかった。

 だが、それがセディッカなら話は別だ。もともと楽しく会話ができる相手ではないうえ、自分の気持ちを認めるまいと躍起になっているというのに、その当人とふたりきりになっては嫌でも意識してしまう。


 そういうわけで、お互い無言でただ歩くだけの気まずい時間を繰り返していた。

 だいたいセディッカも魔女に言われて義務的にしているだけだろう。きっと面倒だし嫌なんだろうなあ、なんか申し訳ないなあ、などと思ってしまい無駄に凹むアリヤだった。


「……」


 終わりの見えない沈黙。水底のような息苦しい静寂。

 物音ひとつしない街角で、ふたりの足音だけがあたりに響いている。


 アリヤは極力彼のほうを見ないようにじっと足許を睨んでいた。セディッカの歩幅は少しだけアリヤより広くて、だからこちらに合わせるためか、たまにわざと歩みが遅くなることがある。

 そんな気なんて遣わなくていいよ、と喉元まで何度か浮かんだものの、結局一度も口を開いてすらいない。


 ああ、気まずい。


「……おまえ、なんで魔女になりたいんだ」


 急に静寂を破って放られたセディッカの言葉に、アリヤははっとした。彼から話しかけてきたのなんて初めてかもしれない。


「あ、えと、魔女さんに憧れてるから、だよ……彼女みたいになりたくて」

「ふん。……何も知らないくせに」

「……え?」


 セディッカはそこで立ち止まった。少し遅れて足を止めたアリヤが振り返ると、彼と自分の間には、アリヤ自身の影が横たわるように伸びている。


 橋のようにふたりを繋ぐそれは、しかしわずかに背が足りなくて、セディッカに届いていない。夕陽はアリヤの背中の側にあるから、彼の影はこちらにそっぽを向いている。

 どちらかが少し歩み寄れば届く距離。けれどその一歩が、ひどく遠い。


「おまえは魔女に向いてない」


 彼は吐き捨てるようにそう言った。セディッカの翡翠色の瞳は、アリヤの肩越しに燃え盛る夕陽を浴びて、なぜだか泣いているように潤んで見えた。



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