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見習い少女は傷だらけ  作者: 空烏 有架(カラクロ/アリカ)
第一幕 ✴︎ ずたぼろ少女の一念発起
5/73

05/「新しい恋を見つけましょ」

 そのあと友人たちは帰ったが、アリヤはひとりで残った。もちろん魔女の薬作りの勉強をするためだ。

 とはいえ魔女もいきなり何かの調合法から教えてくれるわけではない。

 まずその前の前のさらにもうひとつ前くらいの段階、つまり材料となる薬草の種類を頭に叩き込むところから始まった。


 学校の勉強だってそこまで得意ではないアリヤだが、初日から泣き言など言ってはいけない。ともかく聞いたことすべてを片っ端から書きとっていく。

 天井の吊り照明(ランプ)からぶら下がったコウモリが、少し眠そうな眼でそんな彼女をじっと見つめていた。


 結論から言うと一日でぜんぶ覚えられるわけがない。そもそもこの日すべての種類を聞いたかどうかもわからないくらい、数が多い。

 いつの間にか陽が沈み出していた。早く帰らないと両親が心配する。

 ……ちなみに魔女になりたいということは、まだ彼らには話していなかったりする。


「わたし、そろそろ帰りますね」

「ええ、お気をつけて」

「ありがとうございます。じゃあまた明日!」


 自分で言いながら、そうか、と思う。

 また明日もあるんだ、と。

 どれくらいかかるのかわからないけれど、こんな日々をずっと繰り返していけば、いつか自分も立派な魔女になれるはず。そう信じている。



 かくしてアリヤの修行の日々は続いた。

 日によってはセディッカもいた。彼の態度は相変わらずお世辞にもよくなかったけれど、そのうちアリヤのほうで慣れてしまった。

 といっても決して彼と仲良くなれたわけではないが。さすがにそれは個人の努力では限界があるというもの。


「セディくん、お茶ありがとう。ごちそうさま」

「……置いとけ。あとで片付ける」


 まあ、これくらいの会話はできるようになった、という程度だ。

 ついでに魔女の発案で、愛称で呼ぶようになった。そうすれば少しは距離が縮まらないかな、という微かな期待からの試みなのだが、今のところめぼしい効果は出ていない。

 文句を言われていないだけ良しとするべきか。


 セディッカの立ち位置は未だ謎だが、どうやら彼は薬草やその他の道具についての知識をしっかり持っているようだった。さすがは魔女に家族と呼ばれるだけはある。

 それでふと思って、こう尋ねてみたことがある。


「もしかして、セディくんも魔女さんのお弟子さんなの?」

「違う」


 ふむ、兄弟子というわけではないらしい。てっきり後継者争いの(ライバル)として警戒されているのかと思ったのだけれど。



 最初は地味で凡庸だと感じた容姿も、見慣れてくるといろいろ発見がある。

 まずは癖毛。寝癖なのか、いつも特定の場所が特定の形状で撥ねていて、ちょっとかわいい。

 この地域の男性にしては少し長いからか、ときどき後ろでひとつ括りにしている。そうすると、うなじのところにだけある黄土色の毛が見える。


 それにやっぱり、瞳は吸い込まれそうなくらい美しかった。しかしそれでうっかり見惚れていると怪訝な……というより不快そうな顔をされるので、できるだけ真正面から顔を見ないように心掛けてはいる。

 でもやはり、あの眼にはふとした瞬間にも惹きつけられてしまう。


 あと気になるのは手だ。指が長くすらりとしていて、それに最初から思っていたように所作がきれいだから、なにか手作業をしているとなかなか絵になる。

 意外に姿勢がいいのもあるだろう。


「あ、今日は彼いないんだ。ちぇっ」

「あらあなた、ああいう人が好みだったの?」

「いやー……正直言ってさ、顔はぜんぜん美形(タイプ)じゃないんだけど、なんか雰囲気がよくない?」

「そうね。細すぎてまったく惹かれないけど、たしかに雰囲気は悪くないわ」


 彼の出現率が上がったことで、友人たちの話題の対象にもなるようになった。

 雰囲気がいい、はアリヤも少しわかる気がする。態度は悪いから関わるのは面倒だけれど、例えばこちらを無視して黙々と薬草をすり潰しているときなんかは、ぼーっとその姿を眺めていられる。

 素敵だと思うわけではまったくない。ただ、なんだか落ち着くのだ。


 魔女との対比もあるのかしら、と思う。存在するだけで視線を惹きつける圧倒的な美女を見たあとだから、平凡で目立たない彼に謎の安心感を覚えるというか。

 華やかさや逞しさはないけれど、そのどこにでもいそうな平凡さがある種、親しみやすさを醸し出しているのだろう。……当人の性格はむしろその真逆だけれども。


「ねえアリヤ、最近残って勉強してってるでしょ。彼と話したりするの~?」

「え? まあ、うん、必要最低限なことだけ」

「あらま、その返事じゃ面白い展開は期待できそうにないわね」

「はは、わたしにそういうの求められても。こんな数日で何かあるくらいだったら、……きっとあの人と付き合ってたし……」

「……えっヤダ、まだ引きずってたの? も~あんな見る眼のない男は忘れなって!」

「そういうんじゃないよ」


 アリヤは無理やり笑顔を作った。

 嘘は言っていない。もうあの人のことは、好きではないと思う。

 少なくとも夜寝る前に思い出してそのまま眠れなくなったり、涙が止まらなくなったりすることはなくなった。


 問題はそこではないのだ。好きだったのに言えなかった、行動できなくて手に入るかもしれなかったものを逃した――その苦い記憶を思い出して、居た堪れなくなる。


 それでも自分なりに努力した。魔女の弟子になりたいことも、思うだけじゃなくてちゃんと伝えたし、だからあれこれ教えてもらえるようになったのだ。

 進歩しているはずなのに、まだどこか納得できていないのはなぜだろう。


「アリヤ、新しい恋を見つけましょ。それがいちばんいい薬よ」

「そーだそーだ~」

「もー、ふたりとも他人事だと思って……」


 そんなこと言われたって、そこらへんに素敵な出逢いなど落ちてはいない。

 溜息混じりになんとなく窓を見る。多彩(カラフル)な色硝子の嵌まった、異国風の円型の窓枠にぶら下がっている一匹のコウモリと眼が合った。



 →

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