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桜咲く道  作者: 大黒 天(Takashi Oguro)
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本編

桜咲く道

大黒 天(Takashi Oguro)



「うわーっ! 満開だねぇ」

 と心地よく叫びながら、真新しいコートに身を包んだ英梨は、橋の向こうまで延々と続く桜並木の下へと駆けて行く。俺はその姿をただじっと見ていた。



 俺の名前は田口悠真。ついこの間、中学校を卒業したばかりだ。今日は同級生の吉川英梨と、近所の川辺まで桜を見に来てるところだ。

 英梨と俺は割と近所に住んでいて、小さい頃から何かと一緒にいることが多い。なんだかいつも、彼女に引っ張り回されている気もしないではないけれど。

 二人でこの川辺まで桜を見に来るのは、毎年恒例のことだ。この川は一面コンクリートで覆われて、見た目には殺風景なところだけど、俺たちにとっては特別な場所。まだ俺が小さかった頃、英梨と初めて言葉を交わしたところだ。



「ちょっと。何でそんなに離れて歩くわけ?」

「……うっせえな。誰か見てるかもしれないだろ?」

 意地悪な口調で問いかける英梨に、俺はぶっきらぼうに応え返した。クスッと笑い、英梨は橋の手前で立ち止まる。どうやら俺を待ってくれているみたいだ。俺は苦笑いしながら、少しずつ足を速めた。



 英梨と出逢った時のことは、鮮明に俺の記憶に残っている。あの時も確か、桜が咲いていたころだった。公園のベンチに座り、ぽつんと座っている女の子に、俺は声をかけた。その女の子が英梨だった。

 その頃の英梨は、今の彼女からは想像がつかないくらい大人しい子で、口数も少なかった。どうも遠くから引っ越してきたばかりで、新しい環境にもうまく馴染めなかったみたいだ。俺は英梨を、その時一緒に遊んでいた仲間達と遊ばせることにした。最初は遠巻きに俺たちを見てるだけだったけど、そのうちに英梨は俺達に混じって一緒に遊ぶようになった。野球をしたりとか、カエルやバッタを捕まえたりとか、男の子の遊びばっかりだった気もするけれど。思えば英梨がこれだけ気が強い子になったのは、元々は俺のせいかもしれないな。

 以来、英梨と俺は一緒にいるようになった。英梨も自分にとって初めての親友ということで、かなり気を許している部分はあるみたいだ。けど、中学に入ってから、俺は英梨と一緒にいるのがなんだか照れくさくなった。

 周りのみんなが、俺達の仲を噂しているのは知っている。もちろん、英梨だってそのことは気づいているだろう。けれど英梨は、昔と変わらない態度で俺に接している。なんで一緒にいるのが恥ずかしくならないのか、不思議なくらいだ。



 俺はようやく英梨の待つところまで追いついた。英梨は軽くうなずき、また橋の方に向かって歩き出す。いつも俺達が遊んでいた公園まで、あと少しだ。



 いつも見るこの後ろ姿を愛おしく感じるようになったのは、いつからのことだろうか。英梨が傍にいるのを照れくさく思う反面、それでも一緒にいるのは自分にそういう気持ちがあるからだ。ちょっとは離れていたいけど、ずっと離れていたくはない。

 俺達は四月から、別々の高校に進むことになる。成績のいい英梨は県内でもトップクラスの進学校へ、俺はごく普通の高校へ行くことになった。俺達二人とも実家からの通学で、特に会えなくなるわけじゃないけれど、別の高校へ行くともなると、やっぱり寂しさも増すもんだ。

 やっぱ……この気持ちを伝えるべきだろう、今日こそは。



 俺達は橋の手前にある、小さな公園へとたどり着いた。公園の向こうには柵が張ってあって、その手前に桜並木がある。コンクリートで覆われた川辺に、ひらひらと花びらが舞い降りていた。

「悠ちゃん! あっちまで行ってみようよ!」

 桜並木の方を指さしながら、英梨は俺を呼ぶ。そして、少し歩き出したところで立ち止まり、不思議そうにふと俺の方を見た。

 俺はただ、その場に立ちすくんでいた。なんかもう、いろんな気持ちがぐるぐる体を駆け巡っている。今の俺の気持ちを素直に伝えたいけれど、一体、何から話したらいいのか……全然、考えの整理がつかない。



「……どうしたの?」

 また意地悪に微笑みながら、英梨は俺に向かって声をかける。俺の気持ちを、全て見透かしているかのように。

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