冒険者ギルドにて
多分、一万字前後になると思います。アップは不定期になると思いますが、よろしくお願いします。
「あーあ、あたしの前にもこういう人現れないかなー……」
あたしはパタンと本を閉じる。それは英雄の物語。仲間から迷宮で追放された少年が苦難を乗り越えて覚醒して強くなった仲間を見返すというもの。
あたしの最近の楽しみは冒険者ギルドの図書室にある冒険小説を読む事だ。なんとここのギルドの図書館には冒険小説の最新刊まである。色々読んだけど、やっぱり追放ざまあ系のお話は面白い。サラサラ金髪イケメンの王子さまが、悪い家臣に裏切られ国を乗っ取られてどん底から這い上がる話や、女神様に勇者として召喚されたけど、不遇なスキルのため追放されて、そのスキルを覚醒させて成り上がっていく話などなど。あたしは片っ端から読み漁った。主人公はみんな、絶体絶命の状態でも諦めず、もがいてもがいて強くなって苦難を乗り越えていく。そして、その隣には主人公を助けるヒロインがいる。
あたしもそんなヒロインになりたい!
あたしの名前はレイチェル。この国に数人しかいない聖女という職業だ。元々は修道僧という、徒手格闘が出来るヒーラーだったのだけど、どうも回復魔法の資質が高かったみたいで、そっち側に成長してしまった。
あたしは、小さい頃に神殿に引き取られてずっと囚人みたいな生活を送って来たけど、やっと独り立ち出来る年になったので、神殿を後にして街で生活する事を選んだ。そして、今はここ迷宮都市で冒険者をしている。
今日はオフなので、パーティーメンバーと一緒にギルドの酒場でまったりとしている。
あたしの所属するパーティー名は『七色の風』。そんなに強くもなく、けど弱くも無い。いわゆる中堅パーティーだ。メンバーは、戦士のダン、盗賊のリコッタ、魔法使いのバル。
ダンはどこにでも居るような顔の二十歳過ぎの人間の男の戦士だ。黒色の髪を短く刈り上げていつも小綺麗だけど地味な服を着ている。長剣と盾を使い経験を基に堅実な戦いをする。あたしたちのリーダーだ。どうもあたしに気があるみたいだけど、あたしの中では頼れるお兄ちゃんって感じだ。
リコッタは色白で金髪碧眼のハーフエルフの女の子だ。少し尖った耳でとっても整った顔なんだけど、とても無口なのがそれを台無しにしている。言い寄る男の子が多いのに全く興味無いみたい。ぴったりとした革鎧にレイピアを下げていて、盗賊って本人は言っているけど、並みの戦士より腕が立つ。あと、多くの知識を持っていて、あたしたちのブレイン的な役割を果たしている。
バルはスキンヘッドで筋骨隆々の髭ダルマだ。ぱっと見戦士に間違われるし、かなり直接戦闘は得意なんだけど、特技は魔法。数々の奇蹟であたしたちを窮地から救ってくれた。動きを阻害しないチェインメイルに武器はメイス。普通魔法使いは集中力を高めるために杖をもつものなんだけど、彼はそれを指輪で代替している。「ガハハハッ」といつも大声で笑い、いつでも陽気で、その風貌とは裏腹にあたしたちを和ませてくれる。なんて言うか、あたしにはお父さんって感じだ。まあ、実際は意外に若いんだけど。
あたしたちの強みは全員直接戦闘が出来る事で、それで短期間で強くなれたんだけど、器用貧乏が祟って中堅で足踏みしている。
「んー、レイチェル、それって最近流行っている『追放ざまあ』っていう種類の本だろ」
ダンがあたしが読んでいた本の背を覗き込む。
「そうよ、あたしの前にもこんな感じの格好いい男の人現れないかな……」
ダンは椅子に深く座ると中空を見つめる。彼が考える時の癖だ。
「そうだな、それ、やってみるか? この迷宮都市ではここしばらく英雄と呼ばれるほどの冒険者は育ってないしな。俺らはその器じゃないし。もしかしたらそれで覚醒して強い冒険者が出来るかもしれないな」
「え、何言ってるの?」
「だからさ、俺達でやってみるんだよ。『追放ざまあ』を!」
ダンは力強い目で、あたしを見ている。え、本気なの?
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