『通行止め』
ウイグル族の男が年に1度の休みで家族の住む村に向かっていた。
「おやじさん。悪いね乗せてもらって。」
「いいずらよ。あんちゃんも大変ずらね。遠くまで出稼ぎずらなんて。」
ウイグルの男は本当なら電車を乗り継いで着いた駅からバスに乗る予定だったが、チケットが取れず、困っていたところ漢族の男のトラックに乗せてもらえたのだった。
「あんちゃん。見てるのは家族の写真ずらか?」
「はい。妻と子供です。去年の3才だから、今は4才。この写真よりずっと大きくなっていることでしょう。」
「うらやましいずら。うちの子供なんてよ、大きくなりやがったら、さっさと村を飛び出て帰ってきやしねぇずらよ。」
「寂しいですが、それが子供の幸せなら・・・」
「ははは、そうずらな。子供には敵わないずら。」
舗装もされていない砂利道の峠を走って暫くすると、渋滞が起きていた。
「なんずら、事故か?あんちゃん、ちょっと待っててくれ歩いて先みてくるし。」
「はい。困ったな。」
暫くすると、漢族の男が戻って来た。
「あんちゃん、ダメずら。通行止めずら。オラの村に行く方向しか行けんし。なんだか、軍人さん がよ封鎖してるずら。どうずら?」
「・・・歩いてでも向かいます。」
「んー。そっか。そしたら、あんちゃん 一端オラの村の道の方へ行くべ。途中、もう使われてないが、あんちゃんの村へ行く旧道があるずらよ。」
「ほんとですか?」
「あぁ、少し遠回りだがいいしょ。」
「感謝します。」
側道でトラックをゆっくりと走らせて、ウイグルの村へ行く道と漢族の村へ行く分かれ道に着いた。そこでは、軍人が道を封鎖し、車に乗っている人たちを無理矢理下しウイグルの村へと続く道へと徒歩で向かわせた。
「おやじさん、歩いてならいけるみたいだから、オレここで降りるよ。」
「・・・・なぁ、あんちゃん。悪いこといわね。このまま黙って乗ってろ。」
すると そこに軍人が2人のトラックを止めた。
「おい、どこ行く。そこのドラック。」
「なんずら。軍人さん。オラ、自分の村へ帰るとこずら。えらい渋滞で疲れたわ。なんか、あったずらか?」
じっと、見つめる軍人。きょろきょろと見渡すが、みすぼらしい2人をみると
「ふん。貧乏人が。行ってよし。」
「ありがとな。」
バックミラーに軍人達が見えなくなると、漢族の男は口を開いた。
「ちょっと前にな、あんちゃんの住む村に駐在していた軍人が病気になったずら、さっきの町の病院に搬送されたずらよ。今、流行ってる新種のウイルスらしいずら。きっと、村を封鎖する気ずら」
「なんですって!オレの妻や子供は?」
「落ち着けし。ようわからんが、嫌な予感がするずら。歩いて村に向かわせるなんて、どちらかというと車を入れたくない感じずらな。」
漢族の男の村が見え始めたころ、一本の古い脇道らしき所で止まった。
「ここがそうずらよ。・・・・・ほんとに行くんかい?」
「はい。」
「そっか。わかったずら。何かの縁ずら、行けるとこまで行ってやるし。」
「え?大丈夫ですよ。」
「いいから、乗ってけし。」
そう言うと、漢族の男はトラックを旧道へと走らせた。
ガタガタ、ドカドカ、ジャリジャリと荒れた道を進む。しゃべっている余裕などない。
1時間半程進むと土砂崩れで道が通れくなっていた。
「ここまでか・・・。あんちゃん。すまん。なぁ、ここからは、まだ2日以上歩かないといけないずら。なぁ、あんちゃん。」ここまで言うとウイグルの男が口を挟んだ。
「・・・おやじさん、ありがとうございます。 ここまで乗せてくれたことに感謝します。ありがとうございました。」
漢族の男は、これ以上引き止めるのをやめた。
ウイグルの男は感謝を述べて、車を降りた。荷台から大きな背荷物と両手いっぱいの荷物を取り出した。
「・・・・おやじさん。これ お礼です。」そう言うと、両手の荷物を荷台に戻した。
「おいおい、あんちゃん。それ、家族の土産だろ。もらう訳には、いかんずらよ。」
「いいえ、どっちにしろ、両手が塞がれては、この土砂崩れ後を越えられません。まだ、背荷物もあるし、妻も分かってくれます。」そう言うと、ウイグルの男は歩いて行った。
「・・・・そうか、ありがとな。・・・・あんちゃん!」再び大声で呼び止める漢族の男
振り向くウイグルの男「はい?」と返事した。
「あのよ。この荷物オイラが預かるから、村に戻ったら奥さんと子供連れて、オイラさ村に取りにい来てけれ。」
「・・・・はい。わかりました。ありがとうございます。」再び、斜面を登るウイグルの男
また、声をかける漢族の男「・・・・・あんちゃん!オイラは、ユンおじさん や。村にきたらユンおじさんって言えば皆教えてくれるから。あんちゃんの名前は?」
「チョウ。・・・チョウです。」
「ちがう、ちがう。本名ずらよ。」
「・・・・・アクル・・・アクルです。」
「そうか!アクル!待ってるぞ。」
手を振るユン、何度も振り返っては、手を振り返すアクル・・・
今は誰も通らない道を必死に進むアクル・・・軍人の行動、ユンの言葉に不安を覚えたが家族に会いたいと思う気持ちのほうが強かった。必死に歩き続けた。
「マリハン・・・マウラ・・・」妻と子供の名前を呼び、山を渡った。
歩き続けて2日目の朝、ようやく村が見え始めた。
アクルは違和感を感じた。朝なのに、村が騒がしい。まだ遠いが、乾いた音や悲鳴らしきものが聞こえた。
アクルは再び歩き始めた。音がドンドン大きくなる・・・山の上から村が見えた・・・・そこは、アクルの住んでいた村の面影は無く戦場・・・いや、一方的な殺戮の地獄絵図となっていた。
「なっ・・・・・なんてこと・・・だ。」その場で、アクルは膝をつき。号泣し、絶望した。
ユンの村から、アクルの村の方角に煙が上がっているのがかすかに見えた。
「なんて、ひどいことをするずら。」ユンは、村の駐在軍人からウイグルの村の話を
悪いとは思ったが、アクルの一部荷物を賄賂に使って話を聞いていた。
「新型のウイルスのせいで、ウイグル族の村を 鏖なんて・・・狂気の沙汰だ。しかも、出稼ぎに出ている者たちが戻るのを待ってだだと。治療するワクチン1本より、銃弾1発のほうが安いからなんて・・・・同じ一族として許せないずら・・・」
「だ、大丈夫。まだ、死ねない。妻と子供、マリハンとマウラを連れてユンおじさんの所に連れて行かないと。」
折れた膝に力を入れ、立ち上がるウイグルの男がいた。
読んで頂き誠にありがとうございます。
今日のTwitterトレンド『通行止め』です。
今年も災害ヒドイのでしょうか?
自然災害、人災、区別つかなくなりそうで怖いです。
ウイグル、モンゴル、香港、チベット・・・・台湾。
それでは、またお会いいたしましょう。(._.)ペッコ