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あの日の少年は剣を手にする。  作者: 正村レミナ
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第一章【守るもの、その代償】

俺には、守らなければいけない奴がいる。


命に代えても...

そいつだけは、傷つけさせはしない。


そう誓った。

あの日、あいつに出会ってから。


俺のすべては、あいつのものになった。



この心も、体も、そして...


力までも。




アイツのためなら、俺はもう迷わない。





それであいつを守ることができるなら。


俺に、それを使わない理由はないから。





~第一章【守るべきもの、その代償】~




『逃げろっ!』




...頭に響く




『誰かぁっ!助けて!!』




...誰かの悲しいほど




『まだ、まだあの中に子供がいるのっ』



...泣き叫ぶ声。





真っ赤に燃える、炎。


視界を染める、建物の影。


逃げ惑う人々の足音。




今でなおあの光景は頭の中に染みついている。


忘れたくても忘れられず、思い出したくなくても思い出される記憶。




『アルっ!』



そんな中でただ一つだけの優しい記憶。



『僕らも逃げるんだっ』




そう言って俺の手を引く君。


小さいころから、君はいつも俺のそばにいた。




『ねぇ...レオン?』



君はどーして僕のそばにいるの?

どーして僕を見捨てないの?

僕は...





【呪われた子供】なのに。







「っ...!」



目が覚めると、体はびっしょり濡れていた。

額を滑り落ちる水滴。


これはきっと汗だろう。



「また...あの夢。

いつになったら忘れる」



毎晩のごとく見る悪夢。

その中にいるのは、あの頃の弱い自分。

あんな自分は、もう二度と、ごめんだ。



俺はもう、あの頃の俺じゃない。

俺には....



「アル?...起きたのか?」


「レオン」




軽やかな仕草で部屋の中へと入ってくる、俺の片割れ。



俺が守りたい、大切な存在。



その燃えるような真っ赤な髪は、何にも染まることはなく

その澄んだ青く輝く瞳は、一切の穢れも残さないほど美しい。



「顔色が悪いな...。

また、夢を見たのか..?」



レオンはベッドに座る俺に目線を合わせるようにそっと膝をつく。


優しくなでる少し大きな手。

その感覚が、やけにくすぐったい。


レオンの綺麗すぎる青で見つめられると、

すべてを見透かされてるように感じてしまう。


それが少し怖かった。



「いや、大丈夫...、」



俺は俺の頭をなでている手をそっと降ろす。

こうやって、跳ね返す。

すべては弱い俺をなくすため。


あの頃の俺はもうどこにもいない、って思わせるために。



「アル...」



目の前の瞳が大きく揺らぐ。

それを直に見たくなくて、


俺は立ち上がって着替えに手を伸ばす。



「...それより、何の用だったんだ?」




部屋のテーブルに綺麗に畳まれていたシャツに袖を通しながら訪ねる。


元々昼寝のつもりでここで寝ていたから、起こしに来たのには何か用があったんだろう。



「...それが、また...」



あぁ。



「...フロイドか」


「...東門の警備じゃ手が付けられない大物だ」



またか。


この世界にはびこる邪悪な獣のような存在。


それが【フロイド】


腹が減っていれば人を食らい、

腹が減っていなければ街を壊し、

息をするだけで辺りに毒をばらまく害獣。


俺たちの世界は、

フロイドに怯えながら生活している。


...無力なものには『死』しかない。


それがこの世界の暗黙の掟。


力に執着し、力に支配されている。


俺は世界を脅かす害獣よりも、

人間を操ってしまう『こんな力』のほうがよっぽど恐ろしく感じる。


「東門は撤収させろ。

...俺が直接片付ける」



そう言い終わると同時に俺は着替えを済ませた。


真っ黒なコートのようなジャケットに黒のブーツ。

胸元には赤いペンダント。


俺の...作業服みたいなものだな。


周りはこれを軍服...という。



「アル...いけるのか?本当に顔色が悪いぞ」



やめてほしい。

その目で見つめないでほしい。

俺は、ただ...

ただ、レオンを...



「大丈夫だって。...どうせ俺がやらなきゃ、いけないんだ」


「...わかった。ただし、無理はするな。絶対だ」



レオンのその言葉に目で答える。


レオンだけじゃない。

もう、誰かが傷つくのは嫌だ。

俺じゃなくて。

レオンの目の前で、誰かに傷ついてほしくないんだ。



「レオン、」


俺がそう呼ぶとレオンは部屋を出て、またすぐに戻ってきた。



右手に、真っ白な剣を手にして。




「...アル」


その言葉と同時にレオンはその剣を俺の前に突き出す。



その直後、真っ白なその剣は少しだけ光った。



そして、


「っ...!?」



俺に、大量に流れ込んでくる、剣の魔力。

膨大過ぎるそのエネルギーは、俺の体を乗っ取るように蝕んでいく。


揺らいでいく視界。

荒くなっていく呼吸。


「アルっ!...やっぱりダメだ、今日だけは、もうっ...」



失いそうな意識の中でレオンの声だけがはっきりと耳に届く。

不思議だ。

いつも、この声だけは誰にも邪魔できないんだ。



「...だい、じょうぶだ。

...もう収まる...っ、あぁっ...ハァ、ハァ、っ」



体が熱い。

それと同時に冷気も流れ込んでくる。

息が...苦しい...



「ハァハァハァ、っ!」


「っ、アル...」



徐々に収まっていくのを感じる。

そしてはっきりと見えるレオンの表情。


そんな顔をするなよ...


お前はあの頃と変わらないでほしい。

ただ、笑っててほしい。



けど、多分。


この状況を毎日のように見てるレオンは、耐えられないんだ。


俺はこの剣を前にすると、毎回のようにこんな発作が現れる。

それはこの剣を使うための、【代償】


一時的に膨大過ぎるこの剣の保有する魔力を俺に移動する。

そして自分の物として扱って戦う。


そう、説明された。


ただ言葉でいうのと実際経験するのは、まったくの別物で...。


正直苦しいし、痛いし、、怖い。


俺がこうなる時、俺の目は変わるらしい。

いつもの俺の目の色は深淵のような黒だ。真っ黒。


それが発作が起きているときは、金色に変わる。

気味が悪いほど透き通った、黄金の瞳。


そう、前にレオンが言っていた。

怖いって。


俺だってそうだ。

いつか俺が俺じゃなくなるんじゃないかって。

この剣に...


【雪月】に乗っ取られてしまうんじゃないかって。


それでも。

これを使ってでも守りたいものがあるから。


俺は、戦える。

だから、大丈夫だ。



「...俺に、すべてを託せ..ッ雪月っ!」



フワッ



そんな浮遊感と共に、俺は苦しみから解放された。


「っ...」


「アルっ!...大丈夫か、アルっ」



力が抜けた俺の体をレオンが受け止める。


その手は、、、震えていた。































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