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悪魔憑きの子  作者: 消池 友喰
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昔のお話

文章読みにくいかもです。

 真っ赤な炎に包まれた街。世界を支配する大国の、その首都。


 繁栄を極め、世界の中心といっても過言ではないほどの大都市だったその街だったが、今やその欠片も見る影はなく、無為な瓦礫の山と化している。

 今朝までは普通の生活を送っていた人々は路傍の無残な肉塊となり、そこかしこに無造作に転がっている始末だ。

 そしてそんな惨状の中を、至って無表情で、ゆったりと歩く人影がひとつ。その余裕は優雅さすら感じさせるような美しいもので、死屍累々とした血生臭い状況の中では、強烈な違和感を覚えるものだった。

 炎が強烈に地面に映し出す、その影は少女の形を描いていた。

 その深紅の相貌は強い眼光を持って前方を向き、風に舞うのは黒色の頭髪。白い陶磁器のような肌が、整った顔立ちを強調している。

  

 美しい少女だった。

 間違いなくこの世のものではないであろう彼女は、他ならぬ、この惨状を作り出した張本人であった。


「...つまらない。この程度なんだね、人間って。」


 少女は大きくため息をついたと思うと、道端に転がっていた生首をポーンと蹴り飛ばした。3メートルほど宙を舞った生首は、地面に当たると、大してバウンドもせずにコロコロと地面を転がった。


 つまらない。本当につまらない。

 もうずっと、面白いと思えるものに出会っていない。


 同族は自分を恐れて近づこうともしないし、他種族の相手をするのも飽きてしまった。人間だって、わざわざ助け舟まで出してやったというのに、このざまだ。


「やっぱりお前ら如きには、私たちの力はまだ...」


 そう言いかけた瞬間。


 少女の背筋に、久しく感じていなかった感覚が走り抜けた。


 ほとんど動物のような勘だった。足を地面に思い切り踏み込み、持てる瞬発力の全てをもってその場から逃げる。

 

 瞬間、少女が先程いた場所に『何か』が衝突し、大爆発が起きた。

 

 噴煙のように土埃が立ち上り、レンガ片がパラパラと飛び散る。爆心地から同心円状に、ビキビキと大きな亀裂が走っていた。

 少女はその爆発に驚愕し、目を見開く。

 気づかなかった。他者からの攻撃、しかも強力だ。あのままだと間違いなく直撃を受けていたし、直撃を受けていたら自分は小さな怪我ではすまなかったろう。

 

 背筋に覚えた、久しい感覚。


 あれは、あの寒気は、本能が鳴らした警鐘であった。

 

 知覚できる範囲___少なくとも半径100メートル以内には生存反応はなかったはずだ。遠距離攻撃だろうか?・・・いや、それでも範囲に入れば気づけたはずだ。

 

 今の攻撃は、察知してから発動までの時間が、『全く』なかった。

 そう、考えられるとしたら_______。


「いやぁ、今ので仕留められないか。さすが悪魔の姫君、やるね。」


 土煙が晴れ、爆心地が露わになる。

 先程まで少女がいた場所は、まるで隕石が落ちたかのように地面が削られ、大きなクレーターのようになっていた。

 そしてその中心には、一人の男と、地面に刺さった、その背丈の2倍はあろうかという大きさの剣。

 先程の声の主であろう男は、その巨剣によりかかって伸びをしていたかと思うと、ぱっぱっと服についた埃を払って、少女の方をむいた。その顔には真剣な雰囲気など欠片もなく、軽薄な笑みだけが張り付いている。

 まだ若い。二十代、もしくは30代か。そのふざけた出立ちとは裏腹に、少女の警戒心は最高レベルまで引き上げられていた。

 

 この男、相当強い。


 人間とは思えないほどの魔力量、そして服に隠れてはいるが、相当な苦行の元で鍛え抜かれたと見える筋肉。

 そこらでのうのうと生きているような人間とは別の生物、戦うための体である。

 ここ数百年遭った中でも、戦いの実力においては間違いなくトップクラスに入るであろう男であった。


「...なに、君。本当に人間なの?」


「やだなぁ。どっからどう見てもただの男前だろ?」


 男は、ヘラヘラと笑いながらそう言った。が、少女は警戒を解くことなく、その男をぎろりと強い眼光で睨め付ける。


「男前なら、奇襲なんてしないよ。それも、空間魔法まで使うなんてね。」


 そう、先程の奇襲、少女が気づかなかったのは当たり前のこと。


 どこかから飛んできたわけでもなく、応用空間魔法によって、『突然頭上に現れた』のだから、察知できるはずがないのだ。

 そして、空間魔法などという最上クラスに位置する魔法を使える人間を、少女は見たことがなかった。

 少女の言葉を聞いた男は、少しだけ目を見開いた。そして「バレちゃってるよなぁ」と呟き、決まりが悪そうにポリポリと頭をかいてから言った。


「いやぁ、さっきのやつさ、一応命中率100%だったんだよね。当たんなかったの、君が初めて。」


 男は自信を無くしたように肩を下ろしていうが、それもそのはずだ。突然頭上に現れる超重量級の攻撃なんて誰が避けられようか。少女が避けられたのだって、偶然に近いものであったのだというのに。

 呆れる少女をよそに、男はぶつぶつと独り言を言う。少女は一瞬、それが魔法の詠唱かと警戒するが、単なる独り言のようなので呆れ返った。敵を前にして、この男は何をやっているのか。この隙に殺してしまおうかとも考えるが、なんだか馬鹿らしく思えてくる。

 しばらく待っていたが、一向に男は独り言を止めようとしない。なんてマイペースなんだこいつは。少女は痺れを切らして、半ば叫ぶようにいった。

 

「ねえ!もう攻撃していい?待ちくたびれたんだけど。」


 その言葉にハッとするようにして、男が独り言を中断する。そして申し訳なさそうに少女を見て、口を開いた。


「ごめん、待たせちゃってたね。うん。ごめんごめん」


 そこまで悪いと思っていなそうな口ぶりでそう謝ると、男は組んでいた腕を外して、後ろ手にその巨剣に手を伸ばす。

 

『構築:術式解除:大剣・V』


 男がそう言って手を触れると、巨大な剣が一瞬でパッと光の粒子となって霧散した。

 

 少女は目を見開く。構築魔法。またもや最上級の魔法で、しかもあんな巨大な剣を?

 少女は心の底から戦慄した。規格外という他ない。レベルV魔法を二つなんて、始祖の直系と同レベルの実力だ。そんなのを持った人間なんぞがいてたまるか。

 

 男は剣が霧散下のを目で確認することもなく今度は両手を前に突き出し、そして数秒間だけ瞼を閉じる。

 そしてパッと目を見開いた、その表情に先ほどまでのような軽薄さは微塵も感じられなかった。


『構築:術式発動:花崗岩:形式・千手 :/:遅延II:/:模倣 I:/:代入(材質):水:出力』


 そう呟いた瞬間、男の周囲に石でできた無数の『腕』が構築された。

 

 尋常でない量。この男は、もう生物としての域を超えている。


「じゃあ、始めようか。」

 

 そこにあるのは、ただひたすらにどこまでも凪いだ、湖のような無表情だけだった。


少女はそれを見て、思わず息を飲んだ。目尻が裂けそうなほど見開いた目を閉じることなく、乾いた声で、言った。


「君…、面白いね。」


その言葉を発したのが何年ぶり、いや、何百年ぶりか、少女は覚えていなかった。

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