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怪しい占い師

ーー


 

 その帰り道、あたりはすっかり暗くなっていた。

 街灯など殆どない、靴の色も分からないような夜の田舎道には虫の声だけが延々と響いている。



 あの時、萩原は彼女の死についてそれ以上は語らず、小さな声で「ありがとう」と言った。

 そして俺もまた、萩原が涙を流せたことに見たことにいくらか安心し、彼の家を後にした。



 しかし、俺の頭は自分でも些か不快なほど冷静だ。

 深い繋がりがなかったとしても、友人の想い人であり同級生でもある人物が死んだというのに。



 自転車を手で押し歩き、生暖かい初夏の風を受けながら考える。



 それにしても、と。



 彼女は萩原に会いに行こうとして事故に遭ったのか。それともそれ以前の用事の中で事故に遭ったのか。

 

 俺にとってはそう変わらない二つの理由でも、萩原にとっては天と地ほどの差があるだろう。

 


 もしも前者で彼女の死に萩原が関係してしまっているとしたら、俺は一体どうすればいいんだろうか。

 友人のために何ができるんだろうか。

 

 

 「死」への恐怖も絶望も理解できない俺に、萩原の気持ちを推し量ることは難しい。

 苦痛の気持ちを和らげる方法は分かっても、死への悲しみを拭い去る方法は分からない。



 そして一つ残る謎がある。

 彼女の言った用事だ。用事とはいったい何のことだったのだろう。

 用事が済んだから、萩原の家に行ったんじゃなくて、用事が済んだからこそ萩原の家に行かなかった……?



 なぜこんな思考回路になるのだろう。

 まるで彼女の死が誰かの恣意的なものによって起こった思い込むような考え方。

 それでも俺は、彼女の死が単なる不幸な事故死、そう単純に納得する事が出来ずにいた。



 その日の夜、萩原も俺も葬儀には出席しなかった。

 萩原が行かないと言ったので、俺もそれに倣った。



 その翌日。


 萩原はやはり学校を休んだが、今度はきちんと連絡あってのことだった。


 帰りに萩原の家に寄ろう。何を話すでもないが、何か飲み物でも買っていこう。


 そう思って街に出る。


 この街にある唯一のアーケード街には大抵のものが揃っている。

 逆に言えば他に雑貨を手に入れられるような店はなかなかないために、周辺に住む人たちは必要なものがあるとここに集まってくる。


 だから、自分の家の周りの風景からは考えられないような賑わいがここにはあった。


 昔ながらの計り売りの肉屋やクルクルとあの看板が回る美容院、小さなドラッグストアに喫茶グレア、不動産、ATM……。



 いつもと変わらない風景をぼんやり見ながら歩いていると、考えるより先に目がある一点を見つめて動かなくなる。


 その先にあったのは、フードを深くかぶり黒いマントに身を包んだ塊と、紺のテーブルクロスをかけた小さな丸テーブルであった。


 視界を徐々に広げていくと『占い館』と書かれた看板が置いてある。塊と思ったものは人間だったようだ。

 中央に座るその人は、テーブルに両手をおいたままピクリとも動かない。


 もしかして死んでいるのか?いや、まさか……。


 なんだか気になって少し近づき、通りすがりを装いつつ、フードの中身を除こうと首をかしげてみる。


 するとその塊は突然両手を引っ込めて顔を上げた。

 暗くて表情は見えないが、こちらを見つめ返しているようだ。


 覗き込んでいるのがバレたのか?

 聡いやつ。

 まぁ普通に生きているようだし、占いなどというスピリチュアル的なものには興味がない。というかあまり関わりたくない。


 あなたを見ていたわけじゃないんですよ、と半分かしげた首をそのままぐるっと一周させ片手で肩など揉みながらやや方向修正し、何事もなかったかのように通り過ぎようと試みる。



 すると後方から男の声が聞こえた。


 

「お友達を元気付けたいですか?」



 うさんくさいやつ、と無視して通り過ぎようとしていると、さらに付け加えて言う。



「俺にはお友達の彼女が死んだ本当の理由を教えることができますよ。お金はとりませんから。」


 

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