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彼女の死

 

 「あいつが来ないなんて、こんな時期に雪でも降るのかと思っちゃうわ。」


 俺が思っていた事を先に口にしたのはクラスメイトの1人。周囲の友人達もうんうん、と頷いている。


 萩原が学校を休んでいる。ただそれだけの情報で「何か変だ」と察するほど、萩原が学校を休むのは珍しい事だった。


 「風邪でもひいたんじゃね? 普通に。」

 

 当たり障りない回答をしつつも、頭の中は有る事無い事色々な想像が膨らみ不安が募っていく。

 

 「そうかね? でもお前が知らないからこそ珍しいんだよな。だって、いつも伝書鳩してんのに。仲良すぎてさ、先生達だって黙認してるじゃん。」

 「まぁね。」


 ボォンと学校の朝一番のチャイムが鳴りはじめ、みんながガタガタと椅子や机を鳴らしながら収まっていく。


 「あとで萩原に聞いといてくんね? そしたらみんなでお見舞いしようぜ。」

 「分かった。しとくわ。」


 担任が教室に入ってきてホームルームが始まる。体調の悪い人や連絡事項のある人はいるか、と聞いている間に机の下でこっそりメールを打った。




 本当に風邪かも知れない。

 昨日は休みだったから今日も休みだと思ってて連絡し忘れてた、とか。



 いや、そうであって欲しい。

 このザワザワとした違和感、杞憂であって欲しい。



 頭の中で「わっりー! 」と元気よく言いながら笑う萩原の顔がありありと思い浮かぶ。

 その想像が、いくらか自分を安心させてくれた。



 しかし、お昼の時間になっても萩原から連絡は来なかった。


 

 寝込んでいるから返事ができないのか……?



 早く授業が終わって、萩原の家に行って確かめたい。「ああごめん寝てたわ」って。



 4限が終わり、教室の前方上部ど真ん中に掛けられている丸い時計が12:15を示すのを見ながら、6限が終わったら……とぼんやり計画を立てていた時だった。


 

 「おい、祐馬聞いた!? 」



 飛び込んできたクラスメイトの声は大きく上ずっていて、一瞬にして非常事態が起こったことを知らせてくる。




 「え、何? 多分知らない。」



 「A組の吉岡さん、死んだんだって……!」



 死んだって何?



 「死んだって……亡くなったって事? どういうこと? いつ ?」



 「わかんない。でも、さっきA組の人たちが先生から説明があって、吉岡さんが車に轢かれて亡くなったって……それで葬儀が……」




 頭も耳もジンジンと痺れて、友人の話が入ってこない。



 なんでどうしてと、何に対する疑問かもわからない言葉だけが意識の中で繰り返される。




 「祐馬」




 友人に二の腕を掴まれてハッとする。




 俺は確かめなければいけない。

 何を? と自問自答するより前に身体が動いた。



 「……俺、早退する。気分、悪いからって。先生に言っといてほしい。」



 友人は俺の二の腕を掴んだ手に一度だけぎゅっと力を込め、ゆっくり手を離す。

 悲しそうな困った様な顔をしながら、俺の目を見て「わかった」と一言だけ答えた。



 俺は机の横にかけられていたカバン一つを乱暴に引ったくって教室を飛び出した。


 


 自転車を漕ぎながら、鼻も口も使って全力で息をして、ペダルが壊れてしまうんじゃないかと思っても、「まだだ、まだだ」と思いながら先を急いだ。


 


 

 そうして息を切らして漕いでいくと、目指したいつもの赤い屋根が見えてくる。

 田んぼの多い青々とした風景に立派にそびえ立つ、白い洋風の一軒家。




 アーチのついた門の前にストッパーも下さずに自転車を乗り捨て、夢中でインターホンを押す。



 躊躇してしまったら、一層怖くなって、もうこのボタンは押せなくなるとわかっていたから。


 

 しばらく待つと、インターホンからガチャと言う音が聞こえ、「はい」と掠れた声がする。



 「大地君はいますか。」


 「……祐馬?」


 「萩原! お前……。」


 昨日何があったんだ? いや、違う。彼女の死と関係があるかどうかはわからない。今日はなんで休んだんだ? いや、こんなにあきらかに学校にいるべき時間に尋ねてきて休みの理由を聞くなんておかしいと誰だって分かる。何かを知っていると、悟られてしまう。


 なんと声をかけるべきなのか、萩原の声を聞いた途端に分からなくてなってしまった。


 勢いを失い、口も身体も動かなくなる。

 そうしてインターホンの前で突っ立っていると、インターホンからまたガチャと音がしてから少しして、玄関の鍵が開いた音がした。


 見ると、ドアが開いてジャージ姿の萩原が顔を出し、ドアを人1人分開いたまま黙ってこちらをじっと見つめている。



 萩原の表情は遠くてはっきりとは見えなかったが、それでも萩原と視線が合っていることは確かだった。



 俺は考えることをやめた。

 そうして何も言わずにただ頷き、萩原と共に家の中に入っていった。

 



 


 


 





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