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コンタクト

 何事も無い休暇の様相を呈しながら、違和感と食い違いが続く。私生活が破綻しても公の通常は変わりなく続けて行かなければならない。アレンは自分だけに課された問題だと思っているが実は……

 「アレン!起きろよ」

 「……ん?!あれ?!アウル」


 公領の北の避暑離宮、先のオルデンブルク公爵の終の棲家だったこの館は、公の逝去の後放置されていたものを、改修してシャトーホテルに仕立てる事に成っていた。長く無人だった館は、内装も外観もそのままではとても使用に堪え無い有様だった。


 アウルは、館の一角に改修の下準備の為のベースを置いていて、定期的に増えすぎた鹿だのウサギだのを駆除する者に使わせていた。

 今回もここ2~3日の間に行われた狩の確認のために来る事に成っていたのだ。


 昨夜は遅くに成って辿り着き、アウルの執事によって整えられた酒肴で誕生日を祝って貰った。何が欲しいかと聞かれたから彼を指さすと、案の定真っ赤に成って怒る。なら聞かないでくれませんか?!


 で、明け方まで思う様……なのに、今朝はとっくに起きていて、身仕度も済ませていた。


 「はぁ……今日は雨だな」

 「何を言っているんだ、こんなにいい天気……私が先に起きているからか?!」


 カーテンを引いた窓から射し込む陽光が、佇むアウルのブロンドをきらきらと煌めかせている。逆光に沈んだ顔からは表情は定かに伺えない。

 珍しいな、咥え煙草何て。


 ベッドの端に片膝を掛けて、コーヒーのカップを差し出す。


 「ロータスのチューニングが上がってきてる。楽しみにして居ただろう?!」


 顧みられない古い館の車庫の中に、オールドロータスが眠って居るのを見つけて、興味を示した俺に、整備を終えたらくれると言ってたっけ。


 カップを受け取り、一口啜った。

 アウルの咥え煙草を盗る。


 「要るなら……」


 言い掛けたのを引き寄せて口付けた。


 「アレン」

 「動かないで、コーヒーが零れる」

 「嫌味なほど気障な奴だな」


 何とでも。


 「……駄々っ子みたいだな。今日は」

 「何時もと違うのは貴方でしょう?!」


 アウルの屋敷でも俺のアパルトマンでも無く、より開放的な場所なのが彼の変化に成って出てきているのか?!


 「早起きはする。コーヒーは淹れてくれる」

 「悪かったな!手が掛かって」


 ガウンを投げつけて出て行ってしまった。

 ちぇっ……今朝は楽しみを浚われちまった。

 何時もの朝はまだ誰も見たことも無い顔をして眠っていて……寝顔を飽きるまで眺めてから指で突いて起こす。


 「こら、寝ぼすけ。起きろよ」

 「……ん……アレン……も少し」


 突く指から頭を庇って煩そうに言う。


 「ふゎ~我ながらなんつぅ他愛ない事を……」


 素肌にガウンを羽織ってベッドを出ると、初秋の朝はひやりと冷たい。バスルームで熱いシャワーを頭から被りながら、ルーティンの様に成っていた日常を思い返していた。


 後朝の朝、目覚めたアウルが呼ぶのは俺の名だと……確かめて居たんだ。ほんっと他愛ない……ある朝、俺を呼ぶはずのアウルの声が、違う名を口にしたら俺は如何するんだろう?!


 身仕度を済ませて降りて行くと、前庭でチューニングの済んだロータスがいい音をたてて居た。欧州の往年の名車ロータス・エスプリ。立ち上がりに時間を要する大型のガソリンエンジン自体が今は珍しい。

 アウルの座る運転席の低いルーフに片肘をかけて、聞いてみた。


 「どう?!エスプリ嬢のご機嫌は?!」


 こう聞かれたらアウルが。


 「だいぶ手ぇ入れたなぁ。違う娘みたいだ」


 と、答えても何の疑問も無いはずなのに、アウルの声で言われると違って聞こえる。


 ……違う…娘?!

 冷や汗が出る。


 「止めます。気が失せた」

 「あ?!お前が転がすって言うからこっちへ届けさせたんだぞ!」


 這々の体で部屋へ上がって来ていた俺に、アウルが改めたように言う。


 「お前ね……朝からホントに可笑しいぞ。具合でも悪いのか?!」

 「いいえ、別に」


 笑われそうで言えない。


 「猟は止めた方が無難かな?!」

 「ちょっと滅入ってるだけですって」

 「滅入ってるって?!がっかりしてか?!」

 「がっかりって?!何に?!」


 聞き返すと、彼が自分を指さす。


 「そんっ……な訳有るはず無いでしょうっ?!」

 「……怒鳴るな。馬鹿」


 はぁ…赤くならないで下さい。やっぱり俺の思い過ごしなのかな?!


 「惚けてる奴が居るから、真っ赤な帽子にしよ。でないと獲物と間違えられて…BANG!」

「うわぁ~」


 考えるだに恐ろしくて思わず頭を抱えた。


 「だからさ。何なの?!」

 「いえ。別に」


 自分には愛される資格が無いと思っているこの人に、俺の気持ちを解れって言う方が無理なんだよなぁ。

 ガレージで猟の道具を物色していた俺に、彼は真っ赤なニット帽を被って言う。


 「真っ赤だぞ!憶えとけよ」


 ほらっ、何にも解って無い!!


 食事を終えて、暖炉の傍でスコッチを舐めている俺の横で、アウルが久しぶりに手にした銃の手入れに勤しんでいる。見詰めている俺に気付いて、ふふんと、鼻で笑うと言う。


 「玩具に熱中してるって言いたいんだろう?!」

 「ええ。嬉しそうに手入れしているなって……それともう一つ……解りますか?!」


 横目でちらと俺を見、銃身を立て膝の上に構えると、引き金に指をかけて言う。


 「お前は何時も土壇場で迷う。引き金を引くか、引かないか……だろう?!」


 俺の心底までをも、見透かされた気がして、衝撃が走った。


 「相手は生き延びる為に必死で逃げている。迷う事じゃない」


 言葉の奥に、何が有るのか、或いは無いのかを考えるのは無意味だろうか?!


 「確かに迷うな。どんな獲物でも?!」

 「狩ると決めたのならな」


 他の者に狩られる事を危ぶむなら、迷う暇など無いのだと。


 「憶えて置きます」

 お読みいただき有り難うございます!

 アレンには気の毒だけれど、アウルの心底には相変わらず、今が永遠に続くとは限らない。何時かその時が来たなら身を引くのは自分なのだという考え方が払拭されていない。微かに有り続けるのかも知れない。後2篇宜しくお願い致します!

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