1話
「南香俺と付き合ってほしい」
「え、ごめん。冬木の事はそういう目で見れない」
たった今俺は幼なじみの南香に告白した。そして、見事に振られた。
南香は学校一可愛い……とは言わないけど人気はそれなりにある。地毛の茶髪は南香のトレンドマークみたいなもので、ウェーブのかかった髪型は可愛さを倍増させていた。そんな、可愛い初恋相手に俺は振られたのだ。
「そ、そう……だよな」
「……うん。私友達待たせてるから行くね」
「お、おう。気をつけてな」
「うん。じゃあーね」
その、別れの言葉は今だけの別れじゃなくて、これからずっと続く別れの挨拶に聞こえた。
「……帰ろ」
誰もいない教室から悔しさと恥ずかしさを引きずって俺はトボトボと家に向かって歩き出した。
→→→
「振られた」
今日のことを親友の拓人に報告した。こいつには色々と相談に乗ってもらったり、最後に背中を押してもらったから、報告はしておくべきだと思ったのだ。
「そうか。まぁ、風野はたしかにお前の事男として見てなかったしな」
それは、俺も納得だ。高校生になって尚、平気で抱きついてくるし、部屋に呼んだり呼ばれたりもした。こんなの、普通の男子高校生と、女子高校生ではありえないだろう。まぁ、それこそカップルだったら話は違うのだろうけど。
「どうすんの?」
これは多分、諦めるか、諦めないかと聞きたいんだと思う。
「諦めようと思うよ」
「理由は?」
「無いよ。……理由は無いけど諦めるよ」
「そうか、お前がそう言うなら何も言わないよ」
「うん。ありがとう」とLINEで返す。携帯を乱暴に布団に投げるとバイブ音が鳴る。画面に映っているのは拓人の文字。
「なに?」
「お前今家か?」
「そうだけど」
「富駅まで出てこれるか?」
「行けるけど」
「なら、サイゼ行こうぜ」
言わなくても分かると思うけど、サイゼはめちゃくちゃ安くて量もそれなりにあるファミレスだ。そして、高校生のオアシスでもある。なにせ財布に優しい。
「今日は奢ってやるよ」
「……なら行く」
「現金なやつだぜ」
俺は母さんに拓人と夜ご飯を食べてくる趣旨を伝えて家から出る。その時、玄関に入っていく南香の背中が見えた。あぁ、結構俺本気で南香の事好きだったんだな。その日のやけに冷たい風が俺の頰を突き抜けた。
→→→
拓人と夜ご飯を食べ終えた後俺は一人で気分転換の気持ちで夜の公園のブランコに座っていた。この公園は南香とよく遊んだ思い出のある公園だ。あそこのトンネルは雨を凌ぐ時によく入っていたし、あの滑り台ではふざけて怪我をしたりした。そして、あの砂場は……いや、思い出さないでいよう。思い出すと気分転換の意味にならない。でも、ここの公園に来てしまったのはそういう事だろう。
段々と耐えられないくらいに、心身ともに冷えてきたから、帰ろうと公園から出ると――
「こんな時間に何をしているの?」
うちの学校……富士高校の生徒会長、雨雲百合とばったりあってしまった。なぜか両手には重そうな荷物を持っている。
「百合先輩……」
「こんばんわ、瑞野くん。で、何をしているの?」
「夜のブランコに乗って黄昏てた、って言ったら見逃してくれますか?」
「無理」
「ですよね」
俺は生徒会の書記だ。習字を習っていたことから字がかなり綺麗で、ノートの取り方も上手いからと担任が勝手に書記に推薦してやがったのだ。
「で、理由は?」
「まぁ、少し色々ありまして」
「それは、告白して振られたから?」
「っ!なんでそれを」
「簡単な事よ。偶々貴方に生徒会のチラシを相談しに行こうとしたら、バッタリってこと」
「……なるほど。まぁ、理由はそういうことです」
まさか、あの現場を見た人がいるとは。そういうのが無いように時間をずらしたつもりだったけど、たしかにこの人は下校時間のギリギリまで生徒会長の仕事をしているからあの時間でも納得できる。……でもあの時間に俺がまだ学校にいるって事を知っていたのか分からないけど。
「まぁ、理由は分かったわ。風邪をひかないうちに帰りなさい」
「送って行きますよ」
「いいわ」
「荷物重そうですし。それに、こんなに暗いのに一人で帰らせるの危ないですし」
この人……百合先輩は全学年から人気があり、告白された数もそろそろ3桁に到達する、と風の噂で聞いたことがある。そして、百合先輩が学校一可愛いと言われている人だ。南香とは違って艶のある綺麗な黒髪で、いわゆる天使の輪っかがある。体のラインも素晴らしいもので、体のバランスはモデルばりだ。俺も少し目の栄養を取らせてもらっていた。
「ほら、行きますよ」
「あ」
これ以上言っても断られそうな気がして俺は強引に手から荷物を奪い取るように持つ。
「じゃあお願いするね」
「うす」
俺たちが歩き出すと雪がチラチラと舞い降り始めた。