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第5章ー12

 2019年の現在でしたら、親子鑑定で一発判明する話ですが。

 この世界(というより史実)の1943年でも、親子鑑定の精度は極めて低いのです。


 それこそ、1990年代に入ってさえ、血液型での簡易判定で、実の父子なのに、母の浮気相手の子で、実の父子ではない、と鑑定されて裁判沙汰になり、全国紙で親子鑑定を誤ったと報道された判決があったと覚えています。


 そう言った時代ということで、よろしくお願いします。

 こういったモスクワ等への侵攻作戦を前にして、日本軍内では人事異動が行われていた。

(もっとも、他の連合国軍内でも、大なり小なり行われていたことではあった)


 例えば。これまで第6海兵師団長を務めていた太田実少将は、第6海兵師団を立て直すことに成功したことから、第3海兵師団長に事実上の栄転をした。

(なお、従前、第3海兵師団長を務めていた南雲忠一提督は、第1海兵師団長に栄転し、第1海兵師団長を務めていた小松宮輝久王提督は、新設された日本海兵隊第2軍団長に、と玉突き式に栄転している)

 そして、これまで、横須賀鎮守府海兵隊長官を務めていた高木惣吉大佐が少将に昇進して、第6海兵師団長に着任していた。


 高木少将は、サンクトペテルブルクに赴任して早々に色々と思わざるを得なかった。

「スペインで戦ってから、僅か6年余りか、時の経つのが早いな」


 スペイン内戦に義勇兵という名目で日本が介入したのは、1936年末のことだった。

 あの時に、まだ正式の軍人ではなかった(何しろ、まだフランス陸軍士官学校の生徒に過ぎず、少尉になったのは義勇兵としての仮階級に近いものがあった)自分の部下の日系フランス人義勇兵のアラン・ダヴーが、カバーの必要性もあるとはいえ、今やスペイン陸軍少佐にまで出世している。

 そして、先日、半ばすれ違いざまの感じで、ダヴー少佐と会い、挨拶をかわして想ったのだが。


 今になって、何となく感じるのだが、あの時のダヴーの髪と目の色に半ば騙されていた気がする。

 ダヴーは、ヴェルダン要塞で戦死したあの先輩の子で間違いないのではないだろうか。

 先日、岸総司大尉と会って、改めて思い出し、記憶の糸がつながった。

 更に考えるのなら、横須賀鎮守府内では半ば公然の噂となりつつある料亭「北白川」の若女将、村山幸恵の秘密の関係(土方千恵子や岸総司の異母姉だが、父の戦死により認知されずじまいになった)を想い合わせ、その3人の顔から連想していくと、尚更、間違いない気が、自分にはしてくる。


 もっとも。

「所詮、自分の推測に過ぎないし、誰も幸せにならない話だな」

 そう高木提督は割り切らざるを得なかった。


 村山幸恵にしても、正式に親子関係存在確認の裁判を起こした訳ではなく、あくまでも土方千恵子や岸総司とは親友との関係だとお互いに言っている。

 実際、下手に村山幸恵が裁判沙汰に踏み切れば、それこそ雑誌記事のネタになるのは間違いなく、ゴシップネタになっていまい、土方伯爵家にまで累が及ぶ話になりかねない。

 そして、村山幸恵は、その辺りを弁えた行動をしている。


 アラン・ダヴーに至っては、実の父親を捜すこと自体を、実母の言いつけから諦めているようだ。

「自分の父の家庭を今更、壊したくないですから。母もそう言っています。父が戦死した以上、お前や私が幾ら言っても、父の正妻は父の子だと認めないだろう。それが分かっていながら、裁判沙汰を引き起こして、父の妻子の家庭を壊す訳には行かない。お前が父を知りたい、という気持ちは分かるけど。父の妻子の家庭を壊す訳には行かないから。それが母の口癖です」


 この辺りは、人によって考えが違う話だろう。

 子どもが実の親に認知を求めるのは、当然の権利だ、という人が、日本国内にもそれなりにいる。

 だが、お互いに親子関係に確実にある場合ならともかく、父子関係が怪しい場合、どうなのだ、という反論が強いのも、また事実だった。

(母子の場合、分娩という事実があるので、そう争いにならない)

 更に、周囲の人に及ぼす影響を考え合わせるならば。


 アラン・ダヴーや村山幸恵(の母)の態度は、男の論理と言われそうだが、高木少将には立派に思えてならなかった。

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