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第5章ー7

 この光景を目撃した小林照彦中尉らが、この体当たり攻撃の詳細等を知るのは、戦後の連合国軍の調査によることになるのだが、ここでその詳細を書いておく。


 この体当たり攻撃は、連合国軍の戦略爆撃に対する迎撃方法として、いわゆる「タラーン」戦術の一種として、ソ連空軍によって研究されたものであり、実際に使われる機体(Mig-3戦闘機)については武装等を外す方法によって軽量化し、少しでも運動性の向上を図っていた。


 そして、ベテラン搭乗員がその機体に搭乗し、1万メートル以上の超高空から体当たりの一撃を実施することによって、連合国軍の重爆撃機を撃墜しようというのが、この時にソ連空軍が編み出した攻撃方法だった。

(なお、あくまでも搭乗員からの自発的志願、判断を前提としており、強制等は無かったとされてはいる)


 小林中尉らが目撃したのは、その最初の攻撃だったのだ。

 更に言うなら、この後も何度か、ソ連空軍はこの攻撃を敢行したが。


 最初の攻撃こそ、ある意味、奇襲となったことから、6機が行った内5機が体当たりに成功し、搭乗員も3人が生還するという大戦果を挙げたが、2回目以降は、連合国軍も警戒しており、2度とこれだけの戦果を挙げることは無かった。

 何しろ、幾ら軽量化して運動性の向上を図ったとはいえ、非武装の機体である。

 連合国軍の戦闘機部隊が、厳重に警戒するようになると、戦闘機の迎撃をかいくぐるのさえ、困難だった。

 そうなると、やはり生還率が急降下してしまい、貴重なベテラン搭乗員が失われるという事から、ソ連空軍の記録がまともに遺されていないので、詳細は不明だが、7月中にはこの攻撃方法は中止となったらしい。


 ともかく、この時についての話に戻すと。


 それこそ、この攻撃を阻止できなかった小林中尉のみならず、それを目撃した野中五郎大尉らにも大きな衝撃を、このソ連空軍の体当たり攻撃は与えた。

 そこまで、ソ連空軍はやるのか、という想いが先だったことから、爆弾を投下次第、日本空軍の重爆撃機部隊は基地への帰還への途上につくことになった。

 また、体当たり攻撃に更にさらされたくない、という(口に出さずとも)想いが内心でしたことから、爆撃の精度も微妙に低下して、日本空軍の爆撃が行われることにもなった。

 そうしたことからすれば、ソ連空軍の体当たり攻撃は、その結果も加味して考える限り、初回は成功したと言えるのではないだろうか。


 だが、裏返してみるならば、最早、そのような奇策に頼らざるを得ない有様に、ソ連空軍は陥っているともいえる状況でもあった。

 第二次世界大戦勃発以来、折を見て、ソ連本土に対する戦略爆撃を、米日英の連合国の航空部隊は行ってきたが、それが欧州において本格化した、といえるのは、ドイツが降伏して、亡命政権の民主ドイツ政府がソ連において成立すると共に、ソ連極東領が日米を主力とする連合国軍の占領下に置かれ、外蒙古政権が連合国側に寝返った1941年の秋以降の話になる。


 しかし、既にそのような状況をある程度は予期していたソ連政府の手によって、いわゆるウラル山脈以東にソ連の主な工場群は移転を済ませており、それを稼働させるための工員(やその家族)も、併せて移動を済ませていた、と言っても良いのが1941年秋の現実だった。


 だが、1942年5月を期して発動された連合国の地上軍による対ソ欧州本土侵攻作戦は、バルト三国や西ウクライナ等を連合国軍の占領下においていくことになり、1942年末までには、レニングラード(サンクトペテルブルク)までもが、連合国軍の占領下に置かれた。

 ここに、ソ連の工場地帯は連合国軍の空襲の猛威に完全に晒されることになった。

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