第5章ー4
そういった現実からすれば、高高度からの爆撃に、連合国軍の戦略爆撃機部隊が活路を見出すのも、半ば当然の話だった。
さすがに高度8000メートル以上からの爆撃を、基本として連合国軍の戦略爆撃機部隊が、戦略爆撃を敢行しては、ソ連軍の高射砲部隊の対空射撃も、対空砲火で攻撃を阻止できる範囲が、必然的に狭まることになるし、どうしても対空砲火の精度も低下するという事態が起きてしまうのだ。
このような連合国軍の戦略爆撃機部隊の爆撃に対しては、ソ連軍も戦闘機部隊の迎撃を活用することで、連合国軍の戦略爆撃機部隊の攻撃を阻止しようと試みたが。
「99式戦闘機だと、後期型でも高度8000メートル以上になると、息を吐きながら戦っているように見える有様になっていましたが、3式戦闘機「疾風」だと、悠々として戦っているように見えますね」
野中大尉が機長を務める99式重爆撃機内において、副操縦士が操縦席からの光景を見て、半ば感嘆するように野中大尉に話しかけてきた。
最初は、自分達を99式戦闘機が護衛していたのだが、燃料等の問題もあり、途中での護衛任務を果たせたことから、モスクワ上空に差し掛かる直前に「疾風」から成る護衛戦闘機部隊が、後方から駆け付けて来て代わりに自分達の護衛任務を果たしている。
「疾風」は、日本空軍の誇る最新鋭戦闘機で、鈴木重工が開発した「誉」エンジンを搭載している。
「誉」エンジンは、二段二速式の過給機を積むことで、99式戦闘機が搭載する「栄」や「金星」以上の高高度性能を発揮できるようになっている。
更に言うなら、「疾風」は基本的にではあるが、2000馬力以上を発揮する高出力エンジンから来る速力と、自動空戦フラップを活用した格闘戦性能を活かすことで、ソ連空軍の戦闘機2機に対して「疾風」1機で戦って見せる、と日本空軍の古参のベテラン搭乗員達が豪語するだけの戦闘機でもあった。
ついでのレベルだが、落下増槽を使用すればになるが、最大で2800キロ、戦闘航続半径950キロを発揮できるだけの長距離の航続距離も、「疾風」は保有しており、そういうことから、モスクワ等への奥地への戦略爆撃の際に随伴任務を果たすことを求められるようにもなっていた。
(もっとも、実際問題として、そこまでの航続距離を発揮できても、搭乗員の疲労等の観点から見れば、余りにも長すぎて無意味に近い、という批判が出るのも、半ばやむを得ない話でもあった。
そのために、(他にも色々と事情はあるが)当初の護衛は別の戦闘機部隊に任せて、いよいよといえる奥地の段階で、護衛任務に入るという形で「疾風」から成る護衛戦闘機部隊は、その任務を果たすのが基本だったのだ)
今日の爆撃任務の場合、99式戦闘機部隊が護衛している段階では、ソ連空軍の妨害は無かったが。
モスクワ上空が迫り、「疾風」から成る護衛戦闘機部隊が駆けつけて、99式戦闘機部隊が引き揚げるのと相前後して、ソ連空軍の戦闘機部隊が、自分達、99式重爆撃機部隊に襲いかかってきて、「疾風」から成る護衛戦闘機部隊が応戦するという事態が引き起こされたのだ。
そして、副操縦士の観察通り、日本空軍の「疾風」は、ソ連空軍の戦闘機部隊に対して優勢裡に戦っているように、自分にも見受けられる。
それでも、首都防空を担うソ連空軍の戦闘機群だ。
一部は、「疾風」の迎撃を何とかかいくぐって、自分達、重爆撃機部隊の下にたどり着く。
米陸軍航空隊等と協同で研究した、コンバットボックスを組んで自分達は応戦する。
伊達に、「空の要塞」と99式重爆撃機は言われている訳ではない。
13丁もの12.7ミリ機関銃を、それぞれの機が装備している。
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