第5章ー1 モスクワ等を目指して
第5章、最終章の始まりです。
モスクワ等を目指して、北方軍集団と中央軍集団は進撃を行うことになります。
1943年4月末、旧称はレニングラード、現在はサンクトペテルブルク近郊の日本海兵隊の駐屯地や、日本陸軍の駐屯地では、カレーを食べる際、ある調味料を隠し味等として入れることが流行っていた。
「うむ、これはこれで美味いな。流石、新宿中村屋お薦めの隠し味だ」
そう語る将兵は多かったが。
「インドのカレーを愛する親父の耳に入ったら、殺されることは無いだろうが、半殺しにされそうだ」
このことについて、防須正秀少尉は頭を抱え込んでいた。
「まあ、弁護人にはなってやるから、ただ、親子喧嘩には介入するな、というのが家訓でな」
そして、このことについて、そう土方勇中尉は、しきりに慰めてはいたが。
「父親に半殺しにされる、と悩んでいる防須少尉に、その慰めは無意味ではないか」
と岸総司大尉らに、土方中尉は突っ込まれることにもなっていた。
ちなみに、その調味料と言うのは。
「マヨネーズを入れる、というのはどうか、と思いましたが、いつの間にか馴染みましたね」
「最近は、マヨネーズを入れないと美味しくない気さえしています」
そう斉藤雪子軍医中尉と、上原敏子看護上等兵は会話しながら、カレーを食べていた。
そもそもの発端は、寒さに対処するために少しでも高カロリーの食事を食べねばならない、という状況に日本軍の将兵、特に海兵隊の面々が、ここソ連での冬季戦闘の際に陥ったことだった。
勿論、北満州やシベリアの極寒での戦闘経験を日本軍は有しているが、そことここでは手に入る食材がどうしても違ってくる。
そして、色々な工夫を糧食に凝らすことになったのだが。
そこにある意味、くちばしを挟んだのが、最近、急増している女性兵士の面々だった。
特に医療部隊では、女性兵士の割合が高く、それこそ味噌等の調味料の自作まで試みる有様で、最新の栄養学の知見を取り入れつつ、少しでも美味しく高カロリー食を作って食べよう、と試行錯誤した。
そうしたことから、主に医療部隊において、幾つかの料理が新開発され、また、改良されたのだが。
そして、その中で、ある意味、大当たりしてしまったのが。
「カレーにマヨネーズを入れては、どうでしょうか。マヨネーズは高カロリーですし。カレーの隠し味として意外と合う気がしませんか」
「確かに挑戦してみる価値はありますね」
そんな会話から、医療部隊の糧食班で、カレーにマヨネーズを入れることが試みられた。
そして、上原看護上等兵らが試食しているところを、防須少尉が訪れて、ご相伴に預かって。
「これは美味い。中々いいですね」
と実際に美味しかったのもあるが、絶賛してしまったことから。
「あのカレーの新宿中村屋の跡取り息子、防須少尉が、カレーにマヨネーズを美味い、と絶賛した」
「試しに、やってみたら、本当に美味しいぞ」
という話が、それこそ、あっという間に海兵隊どころか、日本の陸海空海兵四軍に広まってしまい、カレーにマヨネーズを入れるのが、欧州の日本軍内で流行るという事態が引き起こされたのだ。
中には、カレーライスの上に、直接、マヨネーズを大量に掛ける猛者まで現れてしまった。
そして、思わぬ事態が引き起こされたことに、防須少尉は頭を抱え込んでしまったのだ。
(更に少なからず先走ると、防須少尉が帰国した後、ちょっとしたトラブルが父子の間に起き、上原看護上等兵が父子の間を仲裁することになる)
他にも寒さ対策として、色々と料理が工夫され、日本軍の将兵を寒さから救ったのだが。
この時の冬季戦を経験して帰国した後の日本軍の将兵の回想録の中で、最も取り上げられている料理が、このカレーにマヨネーズと言うことからも、この頃の日本軍の中でいかに流行ったか、分かる話ではある。
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