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第4章ー24

「ハザールの国民は、キリスト教にも、イスラム教にも与したくない、と考えたことから、ユダヤ教に多くが改宗したそうだ。そして、彼らがイスラム教徒の攻撃を、フランク王国のように跳ね返したことから、東ヨーロッパは、イスラム教徒の攻撃を免れることができたともいう。今、コーカサス地方が、キリスト教とイスラム教の対立等から来る混乱に陥ろう、としていることを考えれば、何とも皮肉な話だと思わないか」

 ナポレオン6世の言葉は、ダヴー少佐の胸に響いた。

 何故か、というと。


「それが本当なら、ユダヤ人の一部に、東欧のキリスト教徒は心から感謝すべきですな。それなのに、東欧の多くの地域では、反ユダヤ主義を叫ぶ者が多く、そのためにパレスチナを目指すユダヤ人が多い。何とも皮肉な話としか思えません」

 そう口では言いながら、ダヴー少佐は、決して言えないブダペストでの行動を思い出さざるを得なかった。

 あの時、自分が懸命に保護したユダヤ人の多くが、結局はパレスチナに向かったという。

 更に、パレスチナに到着次第、今度はイスラム教徒、アラブ人を攻撃しているとか。

 何と皮肉なことが多いことだろうか。


 そして、コーカサス地方では、宗教を巡る対立に加え、民族間の対立も今や巻き起ころうとしている。

 本当にイタリア軍が、この対立を調整できればいいのだが、イタリア軍は、こんな対立状況に首を突っ込んで、泥沼に陥りたくない、と逃げ出す算段を早速しているそうだ。

 それをフランスも非難できない。

 同様に、どうやったら少しでも早く放置してここから逃げ出せるか、という主張が出ていると聞く。

 スペインに至っては論外だ。

 何しろ、完全な表向きとしては、中立国なのだ。

 中立国が、こういった対立に首を突っ込んでいい訳が無い。

 2人は、暫く黙り込み、静かな時が流れた。


「ハポン少佐らは、何か難しそうな顔をしていますね」

「気にするな。兵士は戦うだけだ。それにしても、ここでキャビアを食べられるとは思わなかった」

「ドルのお陰ですよ。ついでに女も勧められましたが、断りました」

「それが賢明だ」

 ダヴー少佐らを、遠目で見ながら、バルクマン曹長とシュナイダー中尉は、カスピ海産のキャビアに舌鼓を打ちながら、そう会話を交わして、休みの中でくつろいでいた。


 半分闇に近い出入り業者からドル紙幣で購入した缶詰入りのキャビアは、中々の代物だった。

 共産党幹部辺りの秘蔵品が流出したのかもしれない。

 そば粉入りのパンケーキと言えるブリニにキャビアを載せ、ウオッカと称するサマゴン(密造酒)のつまみにする。

 ロシア風のキャビアの食べ方らしいが、眼前に広がるカスピ海の風景も相まって、楽園での極上の食事に2人は想えてならなかった。

 その味を楽しみながら、二人は更に会話した。


「今年のクリスマスには、故郷に還れますかね」

「多分、還れるだろうな。外人部隊の給料のお陰で、少なくとも1年は家族と遊んで暮らせるな」

「あれだけ戦ったのですから、当然ですね。その間に仕事を探さねば、ドイツで働く場があればいいのですが、ありますかね」

 そう会話した2人のまぶたの裏に、ウクライナの大地で戦死した仲間の姿が奔った。

 彼らは、天国でどんな想いを抱いているだろうか。


 ドイツの国旗の下ではなく、フランスの国旗の下で自分達が戦うと2年前には想像もしなかった。

 そして、自分達からすれば、地の果てとも思えたカスピ海の畔に自分達が立つことになろうとは。

 更に最後の相棒と言えた戦車、ルノー43戦車は、ドイツが開発しようとしていたⅤ号戦車の血を承けた戦車で、ドイツで製造された戦車と聞く。

 

 2人は色々と考える内にいつか沈黙し、波の音に耳を澄ませていた。

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