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第4章ー21

 1943年9月初め、スターリングラード市街に立てこもるソ連第62軍の将兵の断末魔の時は、徐々にだが迫りつつあった。

 この時点で、ソ連第62軍の兵士が保有する銃弾の数は、1人当たり70発を切る有様となっていた。

 つまり、PPsh41短機関銃なら、ドラム型弾倉1つを満たすにも足りない銃弾数ということになる。

 これでは、市街戦において、歩兵同士の近接火力の応酬に際し、ソ連軍の不利は免れなかった。


 これに対し、窮余の一策として、ソ連軍は爆弾代わりに弾薬を積んだ味方の戦闘機を、スターリングラード上空に強行突入させ、その弾薬を空中から投下させることにより、弾薬を味方に届けさせようとしたが。

 数回にわたって強行されたこの手段の結果はと言うと。


「水平投下では、どうしても投下した弾薬が散開してしまう。かと言って、緩降下しつつの投下では、降下しながらの機動となるので、どうしても回避行動が鈍くなり、妨害しようとする敵戦闘機の射弾の的になりやすく、犠牲が出やすい。議論の末に、水平投下を基本でやったが、予想通り、半分も味方には届かなかった、と私は聞いている」

 と、この輸送作戦に3回従事し、3回共生還したリディア・リトヴァク中尉は、そう回想している。


(なお、この時、スターリングラード市街上空を、リトヴァク中尉は飛んだのだが、その時に機体に描かれていた白百合を、対戦した連合国軍の戦闘機乗りの多くが白バラと見間違えたことから、彼女には「スターリングラードの白バラ」という異名が付けられることになる。

 また、ソ連のために戦った女性兵士の半ば代名詞にまで、彼女の名前はなり、あるロシアの戦史家からは

「ソ連のジャンヌ・ダルク」

 とまで名付けられ、その異名が広まることになる)


 更に書くなら、この輸送作戦に従事した戦闘機部隊の損耗も、只では済まなかった。

 9月半ばに、3回目の輸送作戦に従事したリトヴァク中尉は、

「12機が、3回目の時に出撃したが、生還できたのは、自分も含めた3機だけで、他の9人は戦死した。本当は禁じられていたのだが、味方の苦戦に耐えかねて、弾薬を投下した後、自分もそうだったが、地上支援のための銃撃を行ったからだ。そのために、高空からの敵戦闘機部隊の攻撃を受けたことで、大量の戦死者を出すことになった。そして、このことについて、何とか生きていた味方の戦車部隊から、味方戦闘機による援護に深謝す、最期に悔いを遺さずに戦える。我が祖国よ、永遠なれ。と電文が打たれた、と基地に帰還した後に聞かされて、生き延びた私達、3人は号泣した。だが、この電文のために、私達は命令違反で処罰されずに済んだのだ。それを思い出す度に、私は涙が浮かんでならない。他の2回も、それなりに損害が出ている。3回参加して、3回生き延びたのは、私とブダノワ中尉だけの筈だ」

 そう、ある記者の取材の際に答えている。


 それだけの大損害を援護する航空部隊が被っても、スターリングラードの戦いは不利になる一方だった。

 文字通りの背水の陣を敷いて、ソ連第62軍は奮戦したが、1943年9月半ば、終にスターリングラードは、事実上は陥落した、と連合国軍は判定することになった。

 その時点で、ソ連第62軍は、個々の抵抗拠点で抵抗する状況に陥っており、第62軍司令部からの指令の電文は、全く無くなっていたからだ。


 チュイコフ将軍以下、第62軍司令部の最期は諸説ある。

 9月13日に、

「将軍自ら、銃を取って最期まで戦う決意をしている」

 という電文を司令部が打った後、通信が途絶し、連合国軍の将兵は、誰も最後を知らないからだ。

 だが、状況から全員戦死したのだろう、と多くの人が考えている。

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