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第4章ー19

 勿論、スターリングラードに届けられるべきソ連軍の補充兵や補給物資が、そんな状況に置かれているのを、ソ連軍と言えど看過していた訳ではない。

 ヴォルガ河の岸辺にできる限り、高射砲や高射機関砲陣地を設営して、航空攻撃を阻止しようとしたり、戦闘機部隊を出撃させて、連合国軍の戦闘爆撃機の排除を試みたりしている。

 だが。


「燃料は、現在、どれくらいある」

「今、手元にある分だけだと16機全部を、満タンにして出撃するのは無理です。明日になれば、燃料は届くとのことですが。今なら、12機分といったところですね」

「機関銃の弾は、どうだ」

「今なら、後、延べにしてYak-7戦闘機120機の出撃が可能です」

「分かった。12機を出撃させよう」


 8月半ば、リディア・リトヴァク中尉は、上官がそんなやりとりを補給班とした上で、出撃機の数を決めるのを聞き、(内心で)溜息しか出なかった。

 最早、我々は、残りの燃料や機関銃弾の数を気にしながら、出撃を決めないといけない有様なのだ。

 更に言うなら、部品不足から、共食い整備を行わねばならない事態までもが発生しているのだ。


「リトヴァク中尉、列機を連れて、出撃してくれ」

「分かりました」

 上官から命令を受け、リトヴァク中尉は、補給部隊に対する制空権確保のために12機で出撃した。

 本来からすれば、連合国航空部隊のいる飛行場を攻撃すべきかもしれない。

 だが、戦闘機12機程度では、飛行場にたどり着く前に、数の暴力の前になぶり殺しにされるだろう。

 それに、爆弾を積んで飛んでは、空戦での勝算は極めて少なくなる。

 だから、この方法しかない。


 そして、空に上がれば、遠くまで見える。

 当たり前のことだが、それが気鬱の原因になる。

 何故か、というと。

 スターリングラードでは、激しい戦いが続いているのが、空に上がれば、一目瞭然なのだ。

 だが、彼らを直接、援けることは自分にはできない。

 それが心苦しくてならない。


 そんなことをリトヴァク中尉が想っていると、自分の10倍近い数、100機はいるように見えるフランス空軍の戦闘爆撃機の集団が目に入った。

「ゼウスの雷」

 最近、部隊内で聞いたその機種の仇名をリトヴァク中尉は呟いた。

 

 あの太い胴体は独特なので、一目で分かる。

 本来は日本製で、「雷電」という名らしい。

 だが、フランス空軍も、その性能に惚れ込んで、採用したとのことだ。 

 実際、1対1でも、操縦士の技量が同じなら、戦闘爆撃機にも関わらず、Yak-7では、あいつに苦戦を強いられてしまう。

 何故か、というと。


「全機、ペアごとに散開」

 そう命じて、自分がその内の1機を狙って、躍りかかるが、相手は、すっと急降下に入った。

 これをやられては、Yak-7は追尾できない。

 耐えられる急降下速度に差があり過ぎるのだ。

 追尾を諦めて、見回していると、別の敵機が急上昇で仕掛けてきたのでかわした。

 何とか格闘戦に持ち込もうとするが、相手も一撃離脱に徹して誘いに乗ってくれない。

 だが、


「そこ」

 掛け声を挙げながら、見越し射撃を行うことで、何とか射弾を浴びせることに成功する。

 それなのに。


「全く戦車じゃないのよ」

 リトヴァク中尉は罵声を挙げた。

 数発程度とはいえ、20ミリ機関砲が命中したように見えたのに、「ゼウスの雷」は悠々と飛ぶ。

 そして。


「生き残っている者は帰還せよ」

 何機かと懸命に空戦を行ううちに、弾切れになる。

 こうなっては、自分達は逃げるしかない。


 そして、自分達が援護する筈だった補給部隊は「ゼウスの雷」の攻撃を浴びた。

 まだ爆弾を積んだままのもいたようで、爆弾の雨まで降らせた後、銃撃を浴びせている。

 補給部隊の損害を、リトヴァク中尉は泣いて見届けるしかなかった。

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