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第4章ー18

 実際、スターリングラード市街に立てこもるソ連軍の将兵に対する補給、補充は困難を極めた。


「スターリングラードに送られる補給物資も、補充兵も、ヴォルガ河の河岸にたどり着くまでに、少なくとも半数が失われていて、渡河の準備と実際の渡河の最中に、残りも多くが失われていた。スターリングラード攻防戦中に、自分が知る限り、ヴォルガ河を渡ってたどり着けた補充兵は1万人にも満たなかったし、補給物資もほぼ無いと言ってよかった。モスクワ放送は、スターリングラードを護るために、10個師団の将兵、それに加えて充分な補給物資を送ったと言っていたが、スターリングラードにそれが届かなければ意味が無かった」

 そう、スターリングラード攻防戦を生き抜いて、スペイン青軍団の捕虜となったソ連軍の士官の1人は、戦後に述懐している。


 何故にそんな事態になったかと言うと。


 まず、補給物資だが、スターリングラードにたどり着くまでの過程において、いわゆる中抜きが生じるようになっていたことが大きい。

 つまり、この頃になると、ソ連全体で物資が不足するようになっており、補給物資を運ぶ部隊においても、いわゆる空腹に喘ぐ者が増えていた。

 そのために、物資を摘まんだり、横流しをしたりする者が出だしたのだ。

 当然、政治士官等がそれを摘発すべきなのだが、自分達も空腹に困っているのが、現実である。

 そのために、本来は摘発する側までが、加担するようになり、ますます状況は悪化した。


 それにソ連の将来に、多くの者が昏い予測を持つようにもなっていた。

 失われるだろう祖国に、最期まで殉じようとする者は減る一方で、自分達が生きることを重視する者は増える一方と言うのが、現実だった。


 また、補充兵についても、徴兵自体が困難になりつつあった。

 ソ連軍の兵士になるくらいなら、民族主義者として戦った方が、ということで、本来なら徴兵されて戦う者が、反政府勢力の一員になることが増えつつあった。

 それに酷い事例になると、徴兵されて武器は持つものの、兵同士が語らった末に武器を持って脱走して、反政府勢力に身を投じる例までが生じるようになっていた。


 こんな感じで、当初の予定よりも半分以下に減ってしまった補給物資や補充兵が、スターリングラードを望めるところまで近づくのだが。

 そこからの難関と言えるのが、そこからヴォルガ河を如何に渡河して、スターリングラードに無事にたどり着くかだった。


 夜の闇を利用して、といっても夏なので夜自体が短いのだが、何とかヴォルガ河の河岸に接近する。

 そして、舟艇を活用してヴォルガ河を渡河して、スターリングラードへと向かおうとするが。


 空からは鵜の目鷹の目で、連合国航空部隊の戦闘偵察機が、昼夜を問わずに飛行している。

 そして、地上で移動するモノを見つけたら、容赦なく戦闘爆撃部隊を呼び寄せて、空襲を加えるというのが現実というものだった。


 命からがら、ヴォルガ河の河岸についても苦難は終わらない。

 河岸で舟艇を自分達で準備しなければならない。

 本来なら、舟艇部隊が予め準備している予定だったのだが、それらは連合国軍の攻撃によって、既に失われている。

 持参してきた折り畳み式等の舟艇を展開しようとするが、その間も連合国航空部隊の空襲は行われ、更には連合国地上部隊の砲撃までもが始まる。


「闇夜の鉄砲」というと、当たらないのが通例だが、弾幕砲撃を浴びせられて、砲撃の被害が出ない方がおかしい。

 そして、舟艇の展開を終えて、ヴォルガ河の渡河を、やっとの思いで始めるのだが、その途中でも砲爆撃は容赦なく行われているのだ。

 そのためにスターリングラードに兵も物資も届かないという事態が起こっていた。  

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