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第4章ー17

 実際、フランス第6軍のスターリングラードへの攻撃の当初は、ある意味、スズメバチの巣に対して、勢いに任せる余りに突っ込んでしまったような事態を引き起こした。

 自分達の挑発に、敵がむざむざ引っかかってくれた、と楽観してしまい、フランス第6軍は、ソ連第62軍の攻撃を撃退した勢いに任せて、スターリングラードに突入したのだが。


「全くこんなにあっさり引っかかってくれるとは思わなかった」

 そう第62軍司令官のチュイコフ将軍が言いそうな事態が起きたのだ。


 第6軍の攻撃の当初は、第62軍の敗走(の擬態)に完全に騙されて行われた。

 第6軍の将兵が懸命に第62軍の追撃を行った結果、誤爆を警戒する余り、フランス空軍を始めとする連合国空軍のスターリングラードに立てこもるソ連軍の将兵への最初の爆撃は、完全に腰が引けた状態で行われることとなってしまった。

 そのために。


「畜生。全く、こんな爆撃なら行わなくとも同じだ」

「もう少し、密接な爆撃をソ連軍に対して行ってくれ」

 そう、第6軍の将兵は、連合国空軍がスターリングラードに立てこもるソ連軍の将兵に対して行った爆撃に対して、抗議の声を挙げる事態が生じてしまったのだ。

 実際、連合国空軍の爆撃効果については、戦果がほとんど挙がらなかった、と第6軍司令部や南方軍集団司令部が判定する有様だったのだ。

 そして、スターリングラードに突入した第6軍の将兵は思わぬ損害を被った。

 もっとも。


 第62軍をつり出した効果は、それなりには客観的にあり、第62軍がスターリングラード市街の外で手痛い損害を受け、スターリングラード防衛に当たる戦力を失ったのは事実で、痛み分けと言えた。

 そのために、ド=ゴール将軍は、部隊を立て直して、スターリングラードに対する攻勢を再開した。

 その中には、アストラハン方面から戻ってきたスペイン青軍団の姿もあった。


「本音としては、やりたいものではないですね」

 ベルリン攻防戦やレニングラード攻防戦等において、日本軍が得た戦訓等についての情報を入手し、それを整理した上で、スペイン青軍団の士官等に対して、指導教示することになったアラン・ダヴー少佐は、そのように冒頭で言わざるを得なかった。

「まずは、全部、眼を通してください」

 口で言うだけでは、とても頭に入らない、それが一目瞭然に分かる資料の量を示され、多くのスペイン青軍団の士官が、まずはうめき声をあげ、その資料を読み込む羽目になった。


 彼らの一部は、スペイン内戦において、マドリード等で実際に市街戦を戦ったことがある。

(それを言えば、ダヴー少佐もその一人だった)

 それから5年余りの内に、市街戦の戦術は更に洗練、進化していることが、その資料を読む内に彼らにも分かり、双方の損害が続出する凄まじい戦いを覚悟して、スターリングラードに突入することになった。

 だが。


 グランデス将軍は、ダヴー少佐の助言もあり、ド=ゴール将軍に対して、忠告した。

「無理攻めはしないようにしましょう。第62軍は、戦えば戦う程、弱体化するのですから。何しろ補給が彼らには届かないのです。ヴォルガ河は、今やソ連軍の将兵にとって、ステュクス河と化しつつあります」

「確かにそうだな」

 ド=ゴール将軍は、その言葉に肯かざるを得なかった。


 こういった上層部の方針のために、皮肉なことにどちらかというとソ連軍の方が、スターリングラード市街に関する戦いにおいては、攻勢防御的な戦いをすることになった。

 もっとも、ソ連軍にしてみれば、フランス軍(及びスペイン青軍団)との火力格差から、攻勢防御的な戦いを挑み、

「相手の瞳の色が分かる中で戦う」

 しか事実上は取れる手段が無かったのも事実だった。 


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