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第4章ー16

 更に言うなら、表面上はソ連第62軍の戦力は健在なままなのだ。

 スターリングラード市街の要塞化、陣地化は、連合国軍が積極的に自らに対して攻撃を行う、というのが大前提として行われていた。

 しかし、連合国軍が攻撃を行わないのなら、それは全く無駄になってしまう。

 それならば、連合国軍の攻撃を自らに引き付けて、これらの要塞化、陣地化の効果を上げるためにも、補給が途絶して、戦力を失う前に、こちらから攻撃を仕掛けた方が。


 チュイコフ将軍率いる第62軍は、そのような誘惑に駆られるようになった。


 更に連合国軍の宣伝戦も、ソ連政府、軍の上層部に加えて、第62軍司令部の判断にも影響を与えるようになった。

「スターリングラードの守備隊である第62軍は、連合国軍から1発の銃弾も浴びせられない内に、スターリングラード市街に引きこもり、更に自分達の命を護るために、ひたすら守備に徹している。このような状況のために、スターリングラードの近くにまで、連合国軍の航空部隊は基地を建設し、ヴォルガ河の水運をほぼ途絶させることに成功している」

 等々の宣伝が、連合国軍から行われるようになっていたのだ。


 第62軍は、本来、スターリングラード防衛のために編制された軍であり、このような連合国軍の宣伝を無視するのが、相当かもしれないが。

 ヴォルガ河の水運が途絶えては、ソ連の継戦能力に致命傷を与えることが、第62軍にも分かっている。

 そう言った状況からすれば、このままスターリングラード籠城を第62軍が続けていては、それこそソ連の敗北に加担した敗北主義者だ、とスターリン(及びその側近のベリヤ等)から目を付けられ、文字通り、チュイコフ将軍以下の第62軍司令部の人員のクビが飛ぶ事態が引き起こされかねなかった。


 こうしたことから、折角の防衛陣地を棄てて、連合国軍への攻撃を、スターリングラードに籠る第62軍は実施せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 そして、第62軍の攻撃が始まったことで、(表面上は慌ててだが、当初の計画通り)アストラハン方面に向かっていたスペイン青軍団は、スターリングラードに引き返した、という流れになる。


「フランス第6軍は、第62軍の攻撃を跳ね返し、逆にスターリングラード市街に突入する勢いとのことです。このままいけば、スターリングラードを占領できる、と第6軍は見ているとか」

 8月3日朝、フランス第6軍からの戦況連絡を、アラン・ダヴー少佐は、そのようにスペイン青軍団司令官であるグランデス将軍に報告していた。

 だが、ダヴー少佐の顔には陰りがあった。


「自分の立てた作戦通りに、ある意味、計画が進んでいるのにどうかしたのか」

 グランデス将軍は、ダヴー少佐の表情が気に障り、敢えて声をかけた。

「いえ、欲をかき過ぎかもしれませんが、もう少しスターリングラード突入を控えるべきだったのではないか、と考えまして。どうも、第6軍は、第62軍の出撃にのせられてしまった気がしてならないのです」

 ダヴー少佐は、率直に自らの意見を述べた。


「ふむ」

 グランデス将軍は、その言葉から改めて状況を見直してみた。

 確かに、第62軍の撤退が、自分の感覚からしても早すぎる気がする。

 第6軍は、第62軍の撤退により、スターリングラードに引き込まれてしまったのかもしれない。


「しかし、今更、スターリングラード市街から第6軍が退却する訳にはいかないだろう。もし、その通りだとしても、我々は血を流して戦うしかないのではないか」

 グランデス将軍は、半ば諦念を込めて言わざるを得なかった。

「確かにそうですね」

 ダヴー少佐も、グランデス将軍の言葉に、あらためて覚悟を固めざるを得なかった。

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