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第4章ー14

 初出撃で充分な戦果を挙げて、飛行場に帰還してきた板谷茂中佐らを、小沢治三郎中将は自ら出迎えた。

「よくやってくれた。これだけの戦果を挙げれば、ヴォルガ河の水運は途絶状態になる、とソ連政府、軍上層部は判断するだろう」

 小沢中将の言葉に、実際に船舶の攻撃任務に当たった村田重治少佐は、

「海上での攻撃より、遥かに雷撃を当てやすかったです。多分ですが、流星の放った魚雷の少なくとも半分は当たったでしょう」

 と報告した。

 それに対抗するように、江草隆繁少佐は、

「流星が投下した500キロ爆弾は、全弾命中と判断してよい戦果を挙げています」

 と報告した。


 その言葉を聞いた小沢中将は想った。

 全部で100機に満たない攻撃隊で、これだけの戦果を挙げられては、ソ連軍は堪るまい。


 実際、板谷中佐らと対戦したリディア・リトヴァク中尉らは、自らの飛行場に何とか帰還した後、自分達の戦闘機隊の3割以上が失われるまで奮戦したにも関わらず、護衛すべき船団が全滅したという結果に重い気分にならざるを得なかった。


 現在、モスクワ防衛等に戦闘機部隊が引き抜かれたこともあり、ここスターリングラード近辺に展開している戦闘機部隊は、予備機までかき集めた総数でも500機程だった。

 それに対して、スターリングラード近辺にいる敵の連合国航空部隊は、攻撃機等を含むから単純比較しても意味がないが、艦上機部隊が駆けつけたことによって、どう少なく見積もっても3000機以上に達している筈だった。

 つまり、数的劣勢が約4分の1で自分達が戦えたのは、ある意味、幸運と言える状況だったのだ。

 それなのに、これだけの戦果を連合国航空部隊は挙げてしまう。


 リトヴァク中尉は、整備員が恒例としている、撃墜記念として自分の機体に描いている白百合のことを、何故か考えざるを得なかった。

 あの白百合が、自分の機体に描けなくなるほど、自分が奮闘しても、連合国航空部隊は、悠々とその目的を達してしまうのではないだろうか。

 そして、その時、今、自分の視界内にいる仲間、彼女達の何人が生きているのだろうか。


「リーリャ、思いつめた眼をしている」

 相方といえるエカテリーナ・ブダノワ中尉が、自分に声をかけてきた。

 だが、そう声をかけてきたブダノワ中尉も。

「カーチャ、人のことは言えないわ。鏡を見たら」

「そっくり、その言葉をお返しするわ」

 そうやり取りをして、リトヴァク中尉が、更にブダノワ中尉を見れば、眼の中に涙を潜めていた。


 8機撃墜された内、その中の搭乗員5名は落下傘降下しているらしい。

 と言うことは、生きて還ってくる者もいるかもしれない。

 だから、搭乗員達の総意で、敢えて全員が生きて還ってくるかも、と言い張り、8名の葬儀を今のところはしていない。

 でも、何れはしないといけないだろう。

 そして、遺体の入っていない棺を、私達は何度担ぎ、いや、いつかは担がれることに。


 ブダノワ中尉を見たリトヴァク中尉は、そこまで想いを進め、これ以上考えては戦えなくなる、と頭を振って、想いを振り切り、身振りで皆にもう寝ましょう、と誘った。

 ブダノワ中尉らも、リトヴァク中尉に無言で同意し、皆で寝床に入った。


 そして、リトヴァク中尉らは、それ以降も懸命に戦い続けるのだが。

 数的劣勢は如何ともしがたいものがあり、ヴォルガ河の水運を維持するという大目的は達成できず、損耗を重ねることになった。

 8月に入ると、この航空機の数の差は開く一方となった。

 その影響から、ヴォルガ河の東岸からスターリングラードへの物資の輸送さえも、航空攻撃の前に途絶するという事態が生じた。

 こうした状況から、スターリングラードの第62軍は、死中に活を求めることになる。

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