第4章ー12
「我々の第1目標は、バクー油田から、モスクワやウラル山脈の東方への石油、燃料輸送を途絶させることにある、と私は理解しており、その理解は間違っていないと考えますが、いかがでしょうか」
アラン・ダヴー少佐は、敢えて階級を無視して、やや不遜な態度で述べた。
その言葉に、ド=ゴール将軍以下、会議の列席者の多くが、思わず肯いた。
「それならば、話は簡単です。スターリングラードの占領ではなく、ヴォルガ河水運の途絶を優先して目指すべきです。それに成功すれば、スターリングラードが陥落せず、バクー油田から幾ら石油が吹き出ようとも、モスクワ等では燃料不足に喘ぐことになり、この戦争で我々は優位に立つことが出来ます」
ダヴー少佐は半ば断言した。
「しかしだな。スターリングラードには、第62軍の隷下にある数十万人の将兵が籠城を決め込んでいる。これだけの将兵を無視して、ヴォルガ河水運を途絶させることが、本当にできるのか」
会議の列席者の1人から疑問の声が挙がった。
「スターリングラードにいる第62軍の将兵が、無理攻めせざるを得ない状況を作ればよいのです。そして、無駄な損耗を相手にさせるのです」
「そんなことができるものか」
ダヴー少佐の反論に、別の列席者から、揶揄するような声が更に挙がった。
「そう思われるでしょうが」
ダヴー少佐は、そう言った後、自らの作戦案をかみ砕いて説明していった。
まず、スターリングラードは遠巻きに攻囲するだけに止める一方、ヴォルガ河を航行する船舶に対し、徹底した航空攻撃を浴びせる。
それこそ、日米を始めとする連合国海軍の空母機動部隊の艦上機を陸揚げしてでも、この任務に積極的に投入すべきだ。
艦上機を陸揚げして使うのは、本来的には統帥の邪道だろうが、攻撃機、爆撃機だけで1000機を超えるこれだけの航空部隊を投入すれば、ヴォルガ河水運がほぼ途絶するような事態さえ引き起こせるだろう。
広大な海面と違い、幾らヴォルガ河の川幅が広いといっても、攻撃された側の船舶にしてみれば、回避機動の余地は乏しいからだ。
「確かにそうだな」
会議の列席者から同意の声が挙がった。
「そして、一部の部隊が、アストラハン方面に向かいます。これはあくまでも素振りのつもりです。何故かと言うと、スターリングラードを制圧せずして、アストラハン方面に進撃しては、補給が困難な事態が生じかねないからです。更に、これらの事実を組み合わせて、宣伝戦を展開します。何でしたら、スターリングラード守備隊は、怖気づいており、ひたすら籠城している、と侮辱してもいいでしょう。こういった事態になった際に、ソ連軍上層部、いや、スターリンは、スターリングラード守備隊、第62軍に対して、ひたすら守勢に徹するように命じ続けることが出来るでしょうか」
ダヴー少佐は、そこで、一旦、言葉を切って、会議の列席者を見回した。
「ふむ。第62軍が戦局に影響を与えようとすれば、堅固な陣地を自ら捨てて、攻撃せざるを得ない、という訳か。そうなっては、堅固な陣地を作った意味がなくなり、正面からの機動戦勝負となる」
ド=ゴール将軍は、そう言って、さらにその先を考えた。
現在、連合国の空軍は、基本的に航空優勢を確立している、といってよく、機動戦になれば、航空支援を存分に活用できる連合国軍がソ連軍に対して優位に戦える事態が多発している。
確かに、ダヴー少佐の提案は一考の余地がある。
敵の優位を消して、こちらが優位に戦える案と言えるだろう。
それに、他の者の態度からして、これ以上の妙案は出ないだろう。
「よし、誘いにソ連軍が乗るかは不明だが、その案で基本的に行こう」
ド=ゴール将軍は決断した。
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