第4章ー10
グランデス将軍、それにアラン・ダヴー少佐を始めとする幕僚達は、こうした現状を考えるだに、スターリングラードを巡る戦いは激戦になるだろう、と思わざるを得なかった。
スターリングラードが制圧され、ヴォルガ河水運が切断されては、モスクワ防衛に充てられるソ連軍は致命的と言える燃料不足に喘ぐことになる。
また、バクー油田からの燃料によって稼働している、主にウラル山脈以東の工業都市での工場生産も、ほぼ停止することになり、ソ連の戦争遂行能力は致命的な打撃を受けることになるだろう。
だが、当然、それらのことをスターリン率いるソ連政府、軍は熟知しているのだ。
今のところ、ハリコフ攻防戦を巡る大損害から回復しきっていないこともあり、ソ連軍は基本的に後退を半ば余儀なくされている。
しかし、スターリングラードに、我々というより、フランス軍が接近すれば、流石にソ連軍の後退は止まることになるだろう。
そして、スターリングラードは、半ば要塞となり、おびただしい損害がソ連軍にも、フランス軍にも、更に言うまでもなく我々にも出ることは、半ば必至なのではないだろうか。
そう、この場にいる面々は考えざるを得なかったのである。
そんな想いをしながらも、実際のスペイン青軍団の表面上の進撃は順調に進んだ。
余りにも順調すぎて、未だに徒歩歩兵師団のままであるスペイン青第2師団やスペイン青第3師団が、悲鳴を一時は上げる状況に陥るほどだった。
そのため、という訳では無いが、スペイン青軍団でソ連軍とこの時期、スターリングラードに迫る時期において、主に交戦したのは、スペイン青第1師団とフランス外人部隊第2師団だった。
「双頭の龍だな」
そうシュナイダー中尉は呟いていた。
フランス外人部隊第2師団の将兵にしてみれば、ソ連軍の(相対的)弱体化は明らかだった。
自分達が操るルノー43戦車は、ソ連軍のT-34戦車と同口径の主砲を搭載しているが、こちらの方が長砲身だし、更に光学機器でも優位にある。
2000メートル離れていても、こちらは正面から命中弾を与えて、T-34戦車を撃破できるが、T-34戦車は側面に回り込んで、ある程度は接近しないと、まず命中しないし、側面を抜くことも困難なようなのが、戦訓から分かってきた。
更に完全に機械化された歩兵と、自走砲化された砲兵が支援している。
正に、多くのドイツ軍の将兵が夢見たドイツ装甲師団の理想が、ここで戦い、そして、勝利を収めつつあった。
それに対し、スペイン青第1師団はと言うと。
「ソ連軍を誘致し、打撃を与えろ」
グランデス将軍は、自らの弱みを強みに変えようと試み、それを成功させていた。
Ⅲ号戦車の部隊は、止まることは死を意味する、とばかりに懸命に動き回り、ソ連軍の戦車部隊をキルゾーンに誘致しようと試みた。
そして、引き込んだところには、Ⅲ号突撃砲の部隊が主に待ち構えていた。
Ⅲ号突撃砲は、車体が低く、遠距離での視認性が低いという特質がある。
更にその搭載する75ミリ砲は、500メートル以内なら、T-34戦車を正面から撃破できるのだ。
そして、鹵獲したT-34戦車も無線機を何とか工夫して搭載する等、ソ連軍のものよりも少しでも改良に努めており、同数同士で戦うなら、連携戦闘でスペイン側が優位に戦えていた。
更に歩兵や砲兵にも、この1年余りの戦いで経験を積んだ将兵が増えており、質的優位をソ連軍に対して持つようになっていた。
「我々、フランス外人部隊第2師団と同等の戦力を持つ、と見られるな」
それがシュナイダー中尉の偽らざるスペイン青第1師団に対する評価であり、他のフランス外人部隊第2師団の多くの将兵も同じように想っていた。
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