第4章ー7
5月1日、ハリコフ近郊の駐屯地から、フランス軍主力と共に、スペイン青軍団はスターリングラードを目指しての進撃を始めることになった。
言うまでもなく、この進撃にフランス外人部隊第2師団も同行することになる。
「何だかな。どうにも雑多な怪しい部隊に見える。つい、撃ちたくなるな」
シュナイダー中尉は、遠くに見えるスペイン青第1師団所属の各種部隊を見て、思わず呟いていた。
「気持ちは分かりますが、絶対に撃たないで下さいね。スペイン人が、やっとの思いで編制した部隊なのですから」
バルクマン曹長は、慌てて止めたが、シュナイダー中尉にしても、本気というよりは、余りにも違和感を覚えたことから、思わず口に出たらしかった。
実際、バルクマン曹長の目にも、スペイン青第1師団の編制には、違和感を覚えてならなかった。
「彼らが確かに頼りになる味方なのは分かっているが、確かに誰何したくなる」
バルクマン曹長は、内心で呟いた。
スペイン青第1師団は、基本となる部隊が、戦車大隊2個、自動車化歩兵大隊6個、突撃砲大隊1個、自走砲大隊1個、自動車牽引式野砲大隊1個、自動車牽引式重砲大隊1個という編制表だけ見れば、どう見ても寄せ集めとしか、言いようが無い部隊だったが、更に装備の方が大問題と言える部隊だった。
(なお、他にも対空砲大隊や工兵大隊、偵察大隊等を編制表上、また、実際上も保有はしている)
戦車大隊にしても、T-34を装備する大隊と、Ⅲ号戦車長砲身型を装備する大隊というように寄せ集め感が拭えない。
突撃砲大隊は、言うまでもなくⅢ号突撃砲を装備、自走砲大隊は、日本製の自走砲らしい。
(シュナイダー中尉らは知らなかったが、旧式化した89式戦車に91式105ミリ榴弾砲を搭載した97式自走砲だった)
更に、自動車化歩兵ではあるが、その自動車にしても、米国製、日本製、仏製、独製、伊製と各国の自動車を手当たり次第に集めた末に、ある程度、分別して装備したらしい。
野砲、重砲を牽引する車両も、似たような代物だ。
「よくもまあ、色々と努力を重ねたとはいえ、あれだけの部隊を編制できたものだ」
それが、スペイン青第1師団に対する、シュナイダー中尉やバルクマン曹長の偽らざる想いだった。
それに対し、フランス外人部隊第2師団は、ある意味、ドイツ陸軍が理想とした装甲師団を具現化したような師団だった。
これは、先のハリコフを巡る攻防戦を嘉して、更にドイツ国内の復興が進んでいる証として、ドイツ製の武器等を提供されたことにより、実現したものだった。
戦車大隊2個、機械化歩兵(ドイツ流にいえば装甲擲弾兵)大隊4個、自走砲大隊3個を基幹部隊として、フランス外人部隊第2師団は編制されているが。
その装備する戦車、約140両は全てドイツのⅤ号戦車の血を承けたルノー43戦車だった。
また、機械化歩兵大隊は、ドイツの遺産といえるSd.Kfz.251装甲兵員輸送車を装備している。
自走砲大隊にしても、ヴェスペやフンメルを装備しており、弾薬運搬車まで自走化することで、完全自走化を達成していると言えるものになっていた。
(これを聞いたロンメル将軍が、これだけの師団が、1940年のアルデンヌにあれば、我々は、アルデンヌの突破に成功して、パリ陥落を果たせたろうに、と述懐したという半伝説がある程である)
このように余りにも対照的、また、皮肉な装備を持った部隊が肩を並べて、スターリングラードを目指して進軍することになっていた。
また、先のハリコフ攻防戦でソ連軍は大打撃を受けていた。
そのために、ソ連軍はスターリングラード近郊まで退却を果たしたうえ、再編制を目指す事態に陥っていたのだ。
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