第4章ー3
そんな裏の思惑はともかくとして、4月中に日米伊の空母機動部隊の黒海での作戦が発動されたのは、陽動作戦としての効果を上げるためだった。
4月中にこの作戦を行うことで、再度の日米伊の空母機動部隊の来襲があるのではないか、その際には連合国軍の大規模な上陸作戦が展開されるのではないか、という疑念をソ連政府、軍上層部にかきたてるという側面があったのだ。
そして、実際の結果だが。
「第三次攻撃隊が、帰還しました。損害が多少出ており、集計中です。もっとも軽微といってよく、その代償として、セヴァストポリ軍港内に行動可能なソ連の軍艦、及び船舶は残存せず、とのことです」
「ふん。米空母機動部隊の威力を十二分に示せたな」
ハルゼー提督は、幕僚の報告に鼻を鳴らした。
「ノヴォロシースク軍港に対する空襲の戦果の連絡は届いているか」
「はっ。小沢治三郎提督直々の連絡によると、日伊の連合空母機動部隊は、ソ連の軍艦、及び船舶全てを破壊した。更に、ノヴォロシースク軍港の港湾設備に対し、できる限りの空襲を加えるとのことです」
「何。あっちの方が、貪欲極まりないことをしているな。分かった。こちらは、港湾設備に加え、セヴァストポリ要塞に対しても、できる限りの空襲を加えろ。日伊の連合空母機動部隊に獲物は何も残すな」
ハルゼー提督は、幕僚とのやり取りの後、更なる攻撃を指示し、その指示は実行された。
全てが終わった後。
「あそこまで、米空母機動部隊が頑張るとは」
参謀長の吉良俊一少将は、首を振りながら、半ば零すように言った。
「セヴァストポリ要塞にまで、空襲を加えるとは。ハルゼー提督は、本当に猛将としか言いようが無いな」
小沢中将は、そう苦笑いをしながら言うしかなかった。
「こちらも、十二分な戦果を挙げられたか」
「はっ。ノヴォロシースク軍港の港湾設備も、ほぼ破壊できた、というのが航空偵察写真等を解析した結果です。日伊の連合空母機動部隊の戦果としては、充分なものでしょう。もっとも、セヴァストポリと違い、ノヴォロシースクは、未だに補給路が通じています。それを考えると、すぐとは言いませんが、1月もあれば復旧が為されるのではないでしょうか」
小沢中将の問いかけに、吉良少将は即答した。
「新型機の実戦評価はどうか」
「まず、烈風ですが、現時点で世界最強の艦上戦闘機なのは間違いないです。烈風1機で、ラグでも、ヤクでも2機までなら優勢に戦える、相手が3機でようやく対等、と歴戦の搭乗員達は豪語しています」
「搭乗員の質の差を考えないといけないが、そこまで言うのなら、間違いなさそうだな」
吉良少将の報告に、小沢中将は満足そうに言った。
「流星も充分な評価です。急降下爆撃も、雷撃も可能で、最高速度が560キロオーバー、ノット換算すれば300ノットオーバーを、実戦の場で実証しました。彩雲も、時速700キロ近く、ノット換算で370ノットオーバーの快速を、実戦の場で発揮できています。彩雲に追いつけるソ連空軍、いや、全ての国の空軍の戦闘機は、現時点では絶無でしょう」
吉良少将は、そう言った後、思わず、感慨に耽らざるを得なかった。
あの第一次世界大戦時、自分が実戦で空中戦を戦っていたあの時、日本製の軍用機は、あの戦場には存在しなかったのだ。
それから30年も経たない内に自分の口で、こう言えるようになるとは思わなかった。
吉良少将の想いを無言のうちに察したのだろう。
小沢中将は言った。
「ハルゼー提督が言いそうだな。我が国の技術者共は、日本に劣る軍用機を開発して恥ずかしくないのか。あの国は30年前には航空機を国産化していなかったのだ、と」
吉良少将は苦笑いしか出なかった。
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