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第1章ー6

 そんな男同士(更に言えば、身内同士)の会話が交わされる中、斉藤雪子中尉は、それとなくその場に来ていた、というよりも居座っていた。

 軍医といえど、常に忙しいわけではない。

 休みを取らないと、疲れ切ってしまい、医療過誤の原因になるので、交代で非番になることがあるのだ。


 そして、非番を利用しては、岸総司大尉の下を斉藤中尉は来訪しており、今回、土方勇中尉が岸大尉と協力して、アラン・ダヴー大尉に正月料理、雑煮をふるまおうと計画したのを斉藤中尉は知ったことから、それに協力して、それを口実にここに居座っていたという次第だった。

 ちなみに、ダヴー大尉らが舌鼓を打っている雑煮の調味料等を実質的に手配したのは、斉藤中尉だった。

 何故にそこまでのことを、斉藤中尉がしたのか、というと。


「斉藤中尉、本当にありがとうございます」

 ダヴー大尉が、丁寧に斉藤中尉に言うと、斉藤中尉は言った。

「いえ、岸大尉のためですから」

「そこまで言われるとは、何か特別の関係ですか」


 ダヴー大尉が少しツッコむと、斉藤中尉は微笑んで言った。

「ご想像にお任せします」

「お、おい」

 岸大尉は、どぎまぎしたが、斉藤中尉の表情は変わらない。

 それが目に入った土方中尉を含む周囲の人々は、それとなく目をそらした。


 土方中尉は、それを見て思った。

 やはりな、義弟の岸大尉も決断すればいいのに。

 斉藤中尉としては、きちんとした態度を義弟に示して欲しいのだろう。

 とは言え、義弟としては、戦争が終わるまで先延ばしをしたい話なのだろう。

 父や母方伯父が戦死している義弟の身では、下手に求婚等はできるものではない。

 そんな戦時下らしからぬ思いを土方中尉は抱かざるを得なかった。

 もっとも、岸大尉が微妙な態度を示し、斉藤中尉が積極的なのは、それなりに裏もあるがな。

 身内だけに事情を知る土方中尉は、そう想いを巡らせた。


 斉藤中尉にしてみれば、岸大尉と1940年末頃に知り合ってから2年余りが経ち、結婚したいのか、それとも遊びのつもりなのか、岸大尉にはっきり言ってほしいのだろう。

 それに追い打ちも掛かっている。


 更に噂レベルで自分は確認していないが、斉藤中尉の同僚の女性の軍医士官が、何と男性の兵と婚約を整えて、婚姻届を提出間近と自分は聞いている。

 最も、兵とはいえ、その男性は、いわゆる地主の跡取りのボンボンなので、この戦争が終われば、妻は除隊して家に入るということで、お互いに納得しているらしいが、そうは言っても、女性の士官と男性の兵の結婚である。

 男女間で階級差があるのに、それを乗り越えた結婚ということで、凄い噂になっている。

 それを間近で見せつけられている斉藤中尉にしてみれば、岸大尉は妻を失った独身であり、自分との結婚に差支えは無い、と思っているのだ。

 だが。


 皮肉なことに、岸大尉の斉藤中尉との結婚に、岸大尉の実母の岸忠子と、異母姉の土方千恵子は猛反対を唱えている。

 犬猿の仲の二人が共闘するとは、だから、こんな極寒にここはなるのだ、と土方中尉が想うくらいだ。

 二人が反対しているのは、要するに自分達の目の届かないところで、自分達がよく知らない女性と岸大尉が知り合って結婚しようとするのが、気に食わないだけなのだ、と自分(土方中尉)は見ているが、岸大尉にしてみれば、実父の死後に起きた大騒動からも、身内の了解を得た上で結婚したい、と考えている。


 だから、斉藤中尉との結婚を先送りにして、この世界大戦終結後に母や姉を説得したい、と岸大尉は考えているのだが、斉藤中尉にしてみれば、岸大尉は私と結婚したくないのか、と苛立って、外堀を埋めに掛かっている訳だ。

 世界大戦以上に厄介な戦争だ、と土方中尉は考えた。

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