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第3章ー10

 実際、それを暗に裏付けるような進軍を、貴州省や雲南省において、日本軍は行う羽目になった。

 それこそ、日本軍の進軍する先々で、住民は飢餓に苦しんでいる有様で、文字通り、餓鬼道を垣間見る想いをしながら、日本兵は進軍する羽目になった。


「まず、今日はこれだけしか、食事は出せません。明日以降、増やしますから、今日は我慢を」

「そんな、もっとくれ。今、食わずに苦しんで生き延びるくらいなら、今、思う存分食って死なせてくれ」

「そんなことを言わないでください。生きていればいいことがあります」

「そんな希望が持てるものか」


 ある意味、今の飢餓に苦しみ、腹一杯食えることを、ずっと夢見ていた住民にとって、日本軍が食糧を提供することは、今の飢餓から救われることを意味していた。

 そして、日本軍も、食糧を提供することで住民を少しでも飢餓から救いたいと願ってはいた。

(勿論、食糧の提供を行うのは、単に人道的観点からだけではなく、第二次世界大戦終結後の日中関係を、少しでも良好に保つことで、日本の国益を図ろうとしているという側面があるのも、否定できなかったが)

 だが、その後のことで、住民と日本軍は対立せざるを得なかったのだ。


 飢餓に苦しんでいた住民にしてみれば、日本軍から提供される食糧を、すぐにでも大量に食べたがった。

 しかし、それを住民に認めては、いわゆるリフィーデイング症候群によって、住民に大量の死者を出すことにつながってしまうのだ。

 それを想えば、日本軍は、心を鬼にして、少しずつの食料提供を進めざるを得なかった。

 そして、それを日本軍に教えていたのは、これまでに実地に経験していた戦訓に加えて。


「三木の干殺し、鳥取の飢え殺し。何とも凄まじい戦訓があったものだ」

「中国でも、晋陽や睢陽等、凄まじい戦訓がありますね」

 簗瀬真琴中将は、部下の参謀とそんな会話を交わさざるを得なかった。

 日本の戦国時代における三木城攻防戦や鳥取城攻防戦等(更に歴史をさかのぼるなら、後三年の役の際の金沢の柵の戦い等も含まれるだろうが)を研究することにより、飢餓状態にある人に対して、大量の食糧を提供することは、却って命を損なう、ということを日本軍の将兵は熟知していた。

 そのために、食糧の提供を飢餓状態の住民に対して、慎重に進める方針を日本軍は崩さなかったのだ。


 もっとも、こういった配慮が、当の住民に受け入れられたか、というと微妙な話で。

 それなりの学識のある住民には、日本軍の配慮は受け入れられたが、そのような住民は少数派であり、多数の住民からは、日本軍は積極的に食料を提供しようとせず、我々の飢餓を中々改善しようとしなかった、と第二次世界大戦後長きにわたり、一部の住民(及びその子孫)に至っては、21世紀になっても、日本軍を恨むことになった。

 冷静に考えれば、逆恨みもいい所の話ではあるのだが、そうは言っても、食糧を提供されなかった恨みというのは、中々抜けないものなのである。


 そして、こういった住民のための食糧を運ぶというのは、日本軍の進軍を妨げる多大な要因となった。

 共産中国軍の抵抗が、ほぼ無かったにも関わらず、貴州省や雲南省全体を、日本軍がほぼ制圧するのは、遅々とした進軍の結果、1943年の冬が迫る頃、半年余りを掛ける羽目になったのである。

 住民のための食料を運ぼうとすれば、それなりに道路、鉄道等、輸送経路を整備せねばならず、その整備を進めようとすると、必然的に日本軍の進軍が停滞するという事態が引き起こされたのだ。


 共産中国政府を崩壊させ、中国奥地までの侵攻を日本軍は成功させたが。

 それは、日本軍にしてみれば余りにも苦い勝利と言うしかなかったのだ。

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