第3章ー3
そういった中国奥地の状況は、様々な情報収集手段、航空偵察や住民同士の噂話の収集等により、連合国軍上層部にも、徐々に把握されて行った。
こういった情報を把握した連合国軍上層部の一部は、多大な損害が出かねない地上軍の侵攻を行わずに、戦略爆撃を加え続けることで、共産中国政府の無条件降伏を促すべきだ、という声も上がったが、共産中国政府軍のゲリラ攻撃の損害が、こうした声を結果的に封殺し、地上軍の中国奥地侵攻作戦を、1943年春に発動させることになった。
ちなみに、ゲリラ攻撃の主な対象になったのが。
「中国人は人間ではない」
「彼らを絶滅させるべきだ」
米国の上院、下院の議場で、過激な意見が一部の議員から発言されるが、良識的とされる議員も基本的には沈黙を余儀なくされていた。
なお、日本の衆議院、貴族院の議場においても、似たり寄ったりで、一部の議員の発言について、土方勇志伯爵は耳を塞ぎたくなる思いがしていたが、敢えて止めようとする気にはなれなかった。
共産中国政府のゲリラ攻撃は、ゲリラの特質として、弱い部分を狙うことに徹していた。
従って、敵戦線の後方に浸透しての、後方部隊を基本的に襲撃することが多発する。
そして、この頃、既に日米ともに後方部隊では、女性が珍しくなくなっていた。
そのために。
共産中国のゲリラ部隊により、日米の後方部隊に勤務している女性が虐殺されたり、性的な拷問(強姦等)の被害に遭ったりする例が多発していたのだ。
勿論、日米もこういった事態が生じることが増大したことから、後方部隊警備に気を使い、それなりの部隊を警護に付けるようになってはいたが、それによって、共産中国のゲリラ部隊の被害が、完全に根絶できる訳ではない。
つい先日も、共産中国のゲリラ部隊により、日本陸軍の師団病院が襲撃され、その病院に勤務していた女性軍医士官や従軍看護婦が、何人も戦死する悲劇が起きている。
その中の一人である女性軍医士官は、傷病兵を護ろうとして、全身に弾丸を浴びたことから、ハチの巣のような負傷状態で戦死した、と新聞報道され、軍医の鑑として称賛される一方、そのような残虐なことを行う共産中国のゲリラ部隊、それを支援する共産中国の人民は決して許されない、と日本の世論は過激化する一方になっている。
それに迎合して、一部の議員はそれを更に煽るような発言をするようになっていた。
議会が休息に入ったことから、土方伯爵は議場を離れ、休息所に移動した後、ため息を吐いていた。
全く聞くに堪えない、いい加減に黙れ、と自分が叫びたくなるような意見だが、日本の国民の多くがこの事態に憤激している以上、表立っての議場での非難発言は、議員としての立場を、自分としても考えると世論の風向きからして、どうにも躊躇わざるを得ない状況にある。
勿論、議場外において、議員間の話し合いの席では、過激な意見は控えるべきだ、と自分は言っているのだが、多くの議員の腰と言うか、態度は今は言いづらい、という状況にある。
それだけ、後方勤務の女性が惨殺されたり、拷問されたりした、という現実は、日米を中心とする国民の間に怒りを駆り立てているのだ。
どうにかならないものだろうか、と土方伯爵が考えを巡らせていると、公設秘書の土方千恵子が、周囲をうかがいながら自分に近寄ってきた。
何か機密に近い情報を千恵子が掴んだようだ、と察した土方伯爵は、千恵子と共に、人目に付かない場所に移動した。
「例の女性軍医らが殺傷された件ですが、師団長の誤判断が主な原因とのことで、陰で師団長が免職されました」
「やはりか」
千恵子の報告に土方伯爵は肯いた。
「それで、人事異動を行うとのことです」
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