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幕間1-4

 土方勇中尉が、岸総司大尉と斉藤雪子中尉のことについて、そういうのには訳があった。

 一度、妻の千恵子に対して、岸大尉が、斉藤中尉と結婚したいというのを認めてはどうか、と自分が手紙を書いて送ったところ。

「この件は、私達の岸家の問題で、あなたには口を挟まないで欲しい」

 と要約すれば、そんな感じの木で鼻をくくったような手紙が、千恵子から届いたのだ。


 これは、千恵子は、この件について、かなりへそを曲げているようだ。

 余程、自分がほぼ知らないと言える、斉藤中尉が、自分の弟との結婚を望んでいて、更に弟もその気になっているのが、気に食わないように思われてならない。

 恐らく、岸大尉の実母の忠子も、同様の態度なのだろう。


 そもそも千恵子は岸家というか、野村家から追い出された身で、岸家とは無関係なのだが、産みの母を亡くした岸大尉の長子、優のことから、お互いに内心では嫌がっていたが、岸大尉の母、忠子と千恵子は、協力し合うようになった。

 更に、斉藤中尉のことが起こり、敵の敵は味方の論理で、忠子と千恵子の連携が深まったらしい。


 土方中尉が、そう考えていると、岸大尉も、それを裏打ちするように、

「下手に母の忠子や姉の千恵子に手紙を送ると、感情的な手紙が帰ってくるから、帰国してから説得する」

 という話を、土方中尉にしてきていた。

 それ以来、土方中尉は、この件から手を引いたのだ。

 だが、思わぬところから、この件は動き出した。

 

 1943年4月末のこの頃、千恵子は、防須正秀少尉の父、ラース・ビハーリー・ボースと会っていた。

 最新のインド情勢について、お互いの情報を持ち寄り、認識を一致させるためである。

 このところ、ボースは、いつも憂い顔をしていることが多かった。

 それは何故か、というと。


 インドの騒乱状態が酷くなる一方だったからである。

 インドにおける宗教、民族、カーストの対立は、激化する一方であり、インドにおいて、この紛争の鎮静化を図ろうとする指導者は、その支持基盤から、裏切り者扱いされ、逆に支持基盤によって殺される事態さえ、起こるようになっていたのだ。

 ボース自身は、この状態を何とか鎮静化させたい、と願っていたが。

「マハトマ・ガンディーさえ、暗殺するようなイスラム教徒相手に妥協する訳にはいかない。そんなことを言うのなら、君とは絶交だ。」

 と長年の親友の1人にさえ、言われるのが現実だった。

 だが、今日は。


「久しぶりに明るい顔をされていますね。何か良いことがあったのですか」

 千恵子は、ボースに会って、開口一番にいうことになった。

 それ程、ボースは明るい顔をしていたのだ。

「ええ、息子に結婚したい、という女性が出来ました」

「それはおめでとうございます」

 千恵子は、取りあえず、当たり障りのない愛想を打ったが、ボースの次の言葉に驚愕した。

「全く息子が17歳の女性と結婚したい、と言ってくるとは思いませんでした」


「それは、どうかと思いますが」

 千恵子は思わず口を挟んだが、ボースにたしなめられた。

「相手の女性は17歳ですが、従軍准看護婦とはいえ、れっきとした海兵隊の軍人です。海兵隊の軍人同士が結婚するのに、何か問題があるのですか」

「いえ、確かに言われる通りです」

 千恵子は、そう言わざるを得なかった。


「それに、あなたの義祖父から聞きましたが、あなた自身、自分の想いを貫いて、結婚にまでこぎつけたのでしょう。それなら、自分の想いを貫いて、結婚したい、というのを素直に祝福すべきではありませんか」

 ボースの言葉は、千恵子の胸に響いた。


 そう言われれば、そうだった。

 自分も周囲の思惑を無視して、結婚に突っ走ったのだ。

 千恵子は、改めて弟の結婚を考えることにした。

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