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幕間1-3

 アラン・ダヴー少佐の場合は、愚痴の聞き役としての被害で済んだが、土方歳一大佐や土方勇中尉にしてみれば、それでは済まなかった。

 これまでにも、アラン・ダヴー少佐の連れ子養子のピエールが、土方歳三の孫という話を聞いてはいたが、アランがそれは怪しい話で、ピエールの祖母は騙されてしまっていたようです、と話してくれているので、ある意味、二人共が苦笑いする話で済んでいた。

 だが、今回は、ある意味、実害が生じているので、苦笑いで済ませる訳にはいかず、土方歳三の名を騙ったのは、どこのどいつだ、と二人は探し回る羽目になったが。


「やはり、難しいな」

「陸軍の関係者も併せれば、容疑者は数十万人ですからね。全く、これからも増える気さえしますね」

「冗談ではないぞ。土方伯爵家の縁者です、と名乗られては堪ったものではない」

「やはり、身分証明書にローマ字を入れておくべきでしたね」

「全くだな。漢字とカタカナでは、女性の方も覚えていないな。しかも、案外、女性のカタリ、タカリの可能性も否定できないからな」

「それは、そうです」

 父と子は、土方歳三の名を騙った不届き者を探し出すのを、(この時ではなく、最終的にはだが)諦めざるを得なかった。


 そんな感じで、土方勇中尉の頭が痛い所に、防須正秀少尉と上原敏子上等兵が、仲良く話をしているのが、目に入った。

 さすがに同じ日本海兵隊の軍人同士なので、姓名を騙るようなことを、防須少尉はしないと思うが、予てから、二人の関係について、どうにも気に掛かっていた土方中尉は、一度、半ば訓戒も兼ねて、防須少尉と話し合うことにした。


「何事ですか。二人きりで話し合いたいこととは」

「上原上等兵とのことだ。真面目な交際なのか、どうか聞きたいと思った。場合によっては、防須少尉の父上にも相談、報告しないといけないしな」

 土方中尉は、敢えて厳めしい感じで防須少尉と話を始めた。


「真面目な交際です。この戦争が終わったら、きちんと自分の父親に彼女に紹介して、自分も彼女の両親に挨拶に行こうと思っています。一応、お互いに既に親に宛てて手紙も書きました」

 防須少尉の即答に、却って土方中尉の方が慌てて言った。

「いいのか」

「何かまずいことが、お互いに海兵隊の軍人同士で、しかも独身同士ではないですか」

「確かにそうだが」

 

 土方中尉は、正直に言って、少し腰を抜かしていた。

 勿論、これまでにも海兵隊の軍人同士で交際し、婚約したという話を聞いたことはある。

 だが、まさか、自分の身近な知り合いが、そんな関係になるとは。

 しかも知り合って、数か月の筈なのだ。


 そんな土方中尉の想いを半ば無視して、防須少尉の話は続いていた。

「確かに彼女は17歳ですが、自分にしても22歳ですからね。年齢的にもおかしくない。高等女学校5年生が、大学を卒業したての新任教師と恋仲になるようなものですよ。もっとも、その方が問題ですか。戦争が終わり、帰国したらすぐに、沖縄の彼女の家に挨拶に私は行くつもりですよ。それから、誤解の無いように言っておきますが、彼女とは、清い真面目な交際で、この戦争が終わるまでは通すつもりです。もしものことがあって、彼女が私の遺児を抱き締めて、泣くようなことになって欲しくないですから」


 土方中尉は、溜息をついてから言った。

「そこまで言うのなら、何も言うことは無い」

「ありがとうございます。後、要らない話ですが」

 防須少尉は、少し口ごもり、土方中尉は身振りで話すように促した。


「岸総司大尉と斉藤雪子中尉のことは、どうなっているのでしょう。そちらも問題では」

 土方中尉は、もう一組の男女関係を想い起こした。

「確かに問題だが、自分には口を挟めんのだ」

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