幕間1-2
そんな想いをシュナイダー中尉がした翌日、アラン・ダヴー少佐は、サンクトペテルブルクにグランデス将軍のお供をしていて来ていた。
もっとも、実際には、グランデス将軍が、この春から秋にかけて行われる連合国軍の最終攻勢に関する最高幹部会議に列席する一方で、ダヴー少佐は単独で、様々な交渉で走り回る羽目にもなっていた。
そして、こうした際に、つい、ダヴー少佐が頼るのは。
「おう、よく来たな。全く優秀な子は可愛い、というが、本当だな」
「厚かましいお願いをしてすみません」
「いや、はっきり言って、処分に困る代物だからな。戦利品と言えば聞こえがいいが、後に困っておった。おまけをつけておいた。フィンランド軍が作った整備マニュアル一式だ。代金代わりということで、ついでに日本語にも訳してくれ」
「それくらいなら、お安い代金です」
欧州総軍総司令部を訪問したダヴー少佐は、石原莞爾参謀長とそんな会話を交わし、日本軍が戦場で鹵獲したT-34戦車を、スペイン青師団に譲渡してもらうことに成功していた。
日本軍には、零式重戦車があり、また、既に極東戦線で前期型とはいえ、T-34戦車と交戦、鹵獲していたことから、T-34戦車に余り興味を持たず、鹵獲したT-34戦車を持て余し気味だったのだ。
それに対し、現在、スペイン青師団は優秀な戦車を保有していない。
鹵獲戦車とはいえ、T-34戦車を自軍の戦車として活用できれば、とグランデス将軍らは考え、日本軍からT-34戦車の譲渡を受けることにして、それに成功した、という次第だった。
少し暇だったのもあるのだろう、石原参謀長は、ダヴー少佐に少し愚痴を零した。
「それにしても、君の母親は、いい人だな。君の父親のことを未だに黙っているとは。本当にいい人だ」
「いきなり、どうかしたのですか」
「小人、閑居して不全をなす、というが、全くだな。一昨年の秋から昨年の春に掛けて、ドイツに我々、というか、連合国軍の将兵の多くが駐留しただろう」
「ええ。よく覚えていますよ」
「その際に、我が軍の将兵も駐留したのだが、その際に現地のドイツ人の女性と、まあ、何人どころか、数百人単位で関係を持ってな。それで、子どもを作りおった。妊娠、出産した女性とその家族の多くが、認知してくれ、養育費を払ってくれ、と訴えてきた。その後始末に困っている」
「はは、よくある話ですな」
ダヴー少佐は、こっそりと背中に汗をにじませながら、笑って誤魔化した。
スペイン内戦で結果的にだが、カサンドラとそのお腹にいた子をスペインに置いたまま、フランスに帰国してしまった自分にとって、耳が痛いどころの話ではない。
「おまけに、本名で付き合っていない例が、多発していて、それで、尚更、困っている。5人以上の子どもが居るのが、織田信長に徳川家康に、豊臣秀吉に、近藤勇に、西郷隆盛に、後、誰がいたかな。そして、土方歳三の息子まで3人程、出て来て、本当の土方歳三の孫の土方歳一大佐が、激怒してしまって、誰が名前を騙ったのか、本気で探している有様だ」
「それはさすがに看過できませんな」
「偽名を騙るにしても、そうそう思いつかないからな。後、母親やその家族が訴えてくるのは、日本兵との子が、人種的にも目立ちやすいのもあるのだろう。米軍も、同様のことから、黒人兵の子の訴えについては苦慮しているらしい。余り、騒ぎになると、英仏伊等から、米軍は何を考えている、と叩かれてしまうからな。既にアイゼンハワー将軍まで、頭を抱えているらしい。こちらも宮様まで、直々に命令を下す有様だ」
石原参謀長の愚痴は止まらず、物資提供のお礼代わりに、ダヴー少佐は聞き役を務める羽目になった。
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