幕間1-1
幕間の開始になります。
4月も末になり、さすがにロシアの大地にも遅い春が来ていた。
フランス外人部隊第2師団所属のバルクマン曹長は、上官のシュナイダー中尉が、二日酔いの頭を抱えて唸っているのを、呆れた顔で見ながら、苦言を呈していた。
「だから、止めておいた方が、と忠告したでしょうに」
「うるさい!ドイツ人がビールの飲み比べで負ける訳には行くか」
「それ以前に、シュナップスの飲み比べで負けたのを忘れたのですか」
「酒飲みは、酒を呑んだ際のことは忘れるのが当然だ」
「威張れることですか」
バルクマン曹長は、呆れる想いをしながら、周囲を見回して想った。
あの少佐は、化物か。
アラン・ダヴー少佐は広報参謀としてグランデス将軍の意向を受け、フランス外人部隊第2師団を、引き続きスペイン青師団と共闘させるように、ハリコフ攻防戦終結後に、南方軍集団司令部に申し入れをした。
南方軍集団総司令官のジロー将軍としては、自らの意図に反して、ハリコフ救援一番乗りを結果的に果たしたスペイン青師団とフランス外人部隊第2師団の共闘を認めるつもりは、当初は無かったが。
「パヴィアでは、スペイン人とドイツ人の虜囚になったが。今度は逆になったな。ハリコフでは、スペイン人とドイツ人に救われた。特にドイツ人の彼らは、ランツクネヒトの末裔に相応しい精鋭だ。このまま、彼らが共闘を望むのなら、共に戦わせた方がいいのではないか」
そう、とある方が言って、周囲に働きかけたことから、スペイン青師団とフランス外人部隊第2師団の共闘は、引き続き認められることになった。
そして、スペイン青師団とフランス外人部隊第2師団の将兵は、お互いに交流を持つようになった。
ダヴー少佐は、フランス外人部隊第2師団の物資調達等にも、陰から便宜を与え、お陰でそれこそビールやシュナップスといったドイツ人好みのし好品さえ、容易に入手できるようになった。
それを知ったフランス外人部隊第2師団の面々の一部が、お礼としての飲み会にダヴー少佐を誘い、それにダヴー少佐も参加したのだが、その席で。
「一つ、飲み比べと行きませんか。シュナップスで」
「いいですな」
酒好きのシュナイダー中尉が、ダヴー少佐に挑んだところ、酔い潰されてしまった。
それなら、ビールで挑んでやる、とシュナイダー中尉は再戦を挑んだが、またも、ダヴー少佐に酔い潰されてしまい、今、バルクマン曹長の横で、二日酔いの頭を抱える始末になった、という次第だった。
「全く、あの少佐に挑むなんて、ある意味、失礼な話ですよ。あの少佐のお陰で、我々は色々としてもらえているのですよ」
「まあな」
声を出すだけでも、頭に響いて痛む惨状なのだろう、シュナイダー中尉の返答は短いものだった。
ズキズキする頭痛に苦しみながら、シュナイダー中尉は、バルクマン曹長の言葉を噛みしめた。
一体、どういうコネがあるのか、あの少佐は、色々な意味で階級以上の実力の持ち主のようだ。
姓から言って、実は、あのダヴー元帥の直系の末裔だ、という噂が本当なのではないだろうか。
それ以外にも、真偽不明の噂が飛び交っている。
スペイン内戦時、「白い国際旅団」の一員として奮闘し、あの土方勇志伯爵から目を掛けられた。
表向きの実父は不詳ということになっているが、実は土方勇志伯爵の隠し子ではないか。
そうでなければ、日系とは言え、あれ程、優秀な軍人な訳が無い。
本当は、ダヴー少佐が、スペイン人ではなく、日系フランス人なのを、様々な伝手で知ったフランス第2外人部隊師団の面々は、色々と噂話を咲かせていた。
シュナイダー中尉は、あらためて決意した。
あの少佐に関わるのは、もう止めた方がいい。
特に飲み比べは絶対にダメだ。
本当に、作中で描いたような飲み比べをしたら、病院に担ぎ込まれる事態が発生すると思いますが、そのあたりは小説ということで、ご寛恕を。
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