第2章ー28
スペイン青師団等が反攻を開始したイジュム近辺から、ハリコフ近郊のフランス第6軍の陣地までは約60キロ近い距離があった。
他の南方軍集団の部隊にしても、ハリコフに到達するまでの距離は似たり寄ったり、というしかなく、ハリコフに一番近い部隊でさえ、ハリコフ近郊にハリネズミのような全周陣地を構えて、ソ連軍の攻撃に耐えているフランス第6軍の陣地にたどり着くには、最低40キロ以上の距離を突破する必要があった。
スペイン青師団が所属する南方軍集団により、1月27日から懸命の反攻作戦が展開されたが、ソ連軍も南方軍集団による反攻作戦を予め予期していたことから懸命の防戦を行った。
そのために、南方軍集団の進撃は、順調なものとはとても言えないものとなった。
ほぼ2日間の戦いが終わった1月28日の日没までに、南方軍集団の部隊は、もっとも順調に進んでいたスペイン青師団とフランス外人部隊第2師団でさえ、約20キロを前進するのが手一杯な有様だった。
「自分達の部隊は後、40キロか」
アラン・ダヴー少佐は指揮下の特別混成大隊を指揮しつつ、フランス外人部隊第2師団の面々と共に前進しながら、1月28日の夜に、そう呟きながら、作戦を考えていた。
南方軍集団の攻勢は、徐々にとん挫しつつある、と言われても仕方ない。
とても、南方軍集団だけの力では、ハリコフにたどり着けないだろう。
現在、もっともハリコフに近い南方軍集団の部隊でも、後30キロは突破に成功しなければならない。
それを打開するためには、ハリコフにいるフランス第6軍による背後から一刺しが必要だろう。
だが、単純に一刺しをしても、ソ連軍は慌てるまい。
おそらく、それに対しても、ソ連軍は入念な準備をしていると、これまでの反攻経過から考えるべきだ。
敵のソ連軍の意表を衝いて、ハリコフにいるフランス第6軍が背後からの一刺しを成功させるとなると。
「島津義弘の故事に倣うべきだな。あの時よりも、かなり条件は良い」
アラン・ダヴー少佐は、フランス第6軍に対して、敵中突破を成功させての前進退却案を示唆することにし、グランデス将軍の了解を得て、自らの前進退却案をフランス第6軍に示唆した。
「おもしろい。サムライの師匠として、成功させてやろう」
フランス第6軍司令官であるド=ゴール将軍は、スペイン青師団から示唆された前進退却案に、積極的に賛同したくてならなくなった。
前進退却と言っても、厳密に言えば、横撃をソ連軍に加えることで、ハリコフの包囲を解くものだ。
だが、フランス第6軍が横撃を加えるのは、ハリコフから東南に当たるイジュム方面に向けてだった。
普通に考えれば、孤立しているフランス第6軍が目指すのは、通常の退却方向となる西方、または西南方になるのが常識の筈だった。
それとは半ば逆方向と言える東南方向に攻撃を加える。
確かに、ソ連軍の意表を衝く可能性が高い攻撃だった。
それに、もう一つ、積極的に賛同したい理由が、ド=ゴール将軍にはあった。
「スペイン青師団と手を結べば、ソ連軍の東方への退路を断つことになり、窮地から一転して、我々が大勝利を収められる可能性が高い」
「それに、我々と寝食を共にしたアラン・ダヴー少佐が、このことを提案されたと聞く。ダヴー少佐の案ならば、成功する可能性が高い」
フランス外人部隊第1師団の面々が、この提案に乗り気で、積極的に先鋒を務めたい旨、意見具申する有様だったのだ。
この攻撃は、下手をするとソ連軍の罠に飛び込むことになり、大損害を被るリスクがそれなりに高い。
だから、フランス人の部隊に先鋒を務めさせることは、ド=ゴール将軍にとって躊躇われるが、外人部隊なら問題は無い。
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