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第2章ー20

 かくして、日米共同での戦略爆撃機群によるハリコフへの一大空輸作戦は、断行されることになった。

 とは言え、敵を騙すにはまず味方から、の戦理から、敵味方双方から日米の戦略爆撃機群は、北部戦線にほぼ止まったままであるように装われていたままだった。

 また、この頃、北部戦線でもソ連軍の冬季反攻が行われていたことから、これまで日米の戦略爆撃機の護衛任務に就いていた日米の戦闘機群は北部戦線に残置されて、地上支援任務や制空任務に投入された。

 そういったことから。


 野中五郎日本空軍大尉は、B-17重爆撃機、日本空軍の正式名称では99式重爆撃機に搭乗して、キエフ近郊からハリコフ近郊への物資空輸任務に当たりながらも、どうも落ち着かない思いが抜けなかった。

 いつもなら、99式戦闘機や、つい最近、前線に投入されたばかりの3式戦闘機「疾風」による護衛が付いている筈なのに、それ以外の戦闘機、具体的にはフランス空軍所属の戦闘機が自分達の護衛に当たっていることに、どうにも違和感があってならないのだ。

 もっとも、同乗している他の搭乗員も同じらしく、いつもと違い、どうにも落ち着かない表情をしているのが自分の目に入ってくる。


 野中大尉の視界内には、日本からフランス空軍に提供された2式戦闘爆撃機「雷電」が、自分達の護衛任務に当たっているのが入っている。

 実際問題として、「雷電」の戦闘機としての能力に疑問の余地はない。

 野中大尉が、自分の目で、また、他の搭乗員からの話から判断する限り、「雷電」は連合国の保有する戦闘機の中で優秀な性能を誇るのは間違いない。

 だが。


 いつもは護衛任務に当たらない「雷電」が護衛任務に当たっているというのは、どうにも気に入らない。

 軍人が縁起を担ぐな、と言われそうだが、歴戦の軍人程、生き残りたいという想いが高じ、縁起を担ぎがちになるのも、また事実なのだ。

「雷電」が護衛に当たっているというのは、いつもと違い、縁起が何となく悪い、という想いを自分や同乗の搭乗員がするのは、やむを得ない話ではないだろうか。

 そんな想いをしながら、野中大尉は、この空輸任務に当たっていた。


 ハリコフに近づくにつれ、管制指示が入るようになる。

「ハリコフ第3飛行場に着陸するように。第2滑走路を開放しておく。西から東へ侵入せよ」

「了解した」

 仏語訛りの英語による指示が入り、野中大尉は返答した。


 何だかんだ言っても、米陸軍航空隊の使用するのは英語だし、日本空軍も様々な経緯から、英語の方が仏語よりも馴染んでいる。

 そのために、この空輸作戦においては、英語でのやり取りが徹底されているのだが。

 管制指示に当たっている仏空軍士官には、微妙にストレスがある話らしく、仏語訛りのきつい英語の指示が多い気がする。

 野中大尉は、英仏の長い歴史的な対立の経緯を、そんなことからも感じてしまっていた。


 ハリコフ近郊には、予てから2つの飛行場が整備されていたが、ハリコフの孤立に伴い、空輸量確保のために、緊急で第3飛行場が整備されていた。

 野中大尉が、今回の空輸作戦で着陸したのは、その飛行場だった。

 着陸停止次第、フランス軍兵士が大量に集まってきて、物資の積み下ろしに取り掛かり出した。

 その光景を見ながら、機内で野中大尉は一息、吐いた。

 少しでも迅速に帰還するために、野中大尉らは機内に止まり、物資が降ろされ次第、離陸するように指示が出されている。


 そこまで急がなくとも、というのが、野中大尉の本音だが、ソ連軍の妨害を考えれば、間違っているとは言い難いのが現実の話だった。

 こんな作戦がいつまで続くのか、早く終わらせたいものだ。

 そんなことを野中大尉は想いつつ、任務に励んでいた。 

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