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第2章ー19

 何故に連合国軍に大規模な予備の輸送機部隊が無いのか、の補足説明を兼ねた話になります。

 ある意味、この時の厚顔無恥ともいえるフランス軍の要請を受けた日米の戦略爆撃機部隊の上層部の面々は困惑することになった。

 この頃、ソ連に対する戦略爆撃を主に指揮していた米陸軍航空隊のスパーツ将軍の回想録によれば、

「我々の戦略爆撃の熱意に、大いに水を差す要請としか言いようが無かった」

 と、このフランス軍の要請については述べられている。


 しかし、友軍であるフランス軍の将兵約30万人がハリコフで孤立しており、日米の戦略爆撃機部隊を活用した空輸でしか、その戦力、生命を維持できない、という現実を突きつけられては。

 日米の戦略爆撃機部隊にしてみれば、不承不承ながらも要請を受け入れざるを得なかった。


(なお、この当時、日米を始めとする連合国の航空部隊には、大規模な輸送機部隊が無かったのか、という疑問が呈されそうなので、少し補足説明を行うならば。

 この当時、連合国各国には大隊規模の空挺部隊が複数有り、いわゆる特殊作戦に投入可能ではあったが。

 師団規模どころか、旅団規模に編制された空挺部隊でさえ、連合国各国は保有しておらず、それもあって大規模な空から軍規模を養える程の予備の輸送機部隊を、米陸軍でさえ基本的に保有していなかったのだ。


 これは、第二次世界大戦初期に行われた独軍のノルウェー侵攻作戦において、独軍の空挺部隊が文字通り日本海兵隊によって、ほぼ殲滅させられる悲劇に遭った戦訓からだった。

 この戦訓から、大隊規模以下の比較的小規模な部隊が、奇襲を主な目的として特殊作戦等を遂行するのには、空挺部隊は有効だが、師団、旅団規模の大規模な空挺部隊を投入しての空挺作戦は、それこそ歩兵師団相手でさえも、余程の幸運に恵まれない限り、成功の見込みが薄いと考えられ、米英日仏伊等の連合側の各国は、大規模な空挺部隊の整備に消極的となったのだ。


 そして、第二次世界大戦当時、ソ連軍も大規模な空挺部隊を保有はしていたが、結局は精鋭の歩兵部隊としてしか活用できなかったことを考えると、この当時の空挺部隊の評価として間違っていたとは言い難い。

 空挺師団が世界の各国で本格的に編制されるのは、第二次世界大戦後、ヘリコプターが発展し、ヘリボーン戦術等が可能になってからのことになる。

 話がずれたので、元に戻す)


 ともかく、そう言った事情から、1月19日、キエフ近郊の飛行場は、日米の戦略爆撃機部隊の移動を急きょ、受け入れる羽目になり、思わぬ賑わいを示していた。

「それにしても、日米併せて約200機か」

 野中五郎日本空軍大尉は、周囲を見回しながら呟いた。


 モスクワ空襲のための1000機爆撃を、これまでにも成功させている日米の戦略爆撃機が、ハリコフ救援のために割いた航空機の数は、少ないと言えば少ないと言える。

 だが、日本空軍や米陸軍航空隊の上層部にしてみれば、キエフからハリコフまでの距離は500キロにも満たない以上、それだけあればハリコフへの物資を空輸するのに充分だ、という主張なのだ。


 実際、この200機が、1日に1回飛ぶだけで、1日で800トン近い物資を運ぶことが出来る。

 距離が近いことを考えれば、1日に1機が複数回の空輸作戦を行うことも不可能ではない。

 もっとも、そんなことをすれば、それだけ運用の酷使に伴う故障等の危険が増大することになる。

 実際に搭乗して、ハリコフに赴かねばならない野中大尉にしてみれば、ある程度の交代を入れつつ、ハリコフへの空輸作戦を実施すべきであり、それから考えれば、もう少し、キエフ近郊に展開する戦略爆撃機の数を増やすべきだったが。


「自分の立場では、どうしようもないか」

 野中大尉は、自分の地位からそう割り切らざるを得なかった。

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