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第2章ー15

 少し時を遡る。

 1943年1月16日の夜のことだった。


「ここをパリだと思え。何としてもハリコフを死守するぞ」

 フランス第6軍司令官であるド=ゴール将軍は、ハリコフに置かれていたフランス第6軍司令部において獅子吼していた。

「しかし、側面を固めていたイタリア軍は完全に敗走しており、我々はソ連軍の重囲下に置かれてしまいました。我々もハリコフからの脱出を図るべきです。その上で、ハリコフ奪還を目指すべきです」

 幕僚の一人が発言するが、ド=ゴール将軍は、

「ノン(否だ)」

 と一言で切って捨てた後、想いを巡らせた。


 失策と言えば、失策だった。

 ハリコフを護るのはフランス軍だったが、その側面の一部は、イタリア軍に任されていた。

 ソ連軍は、イタリア軍の守る部分、弱い部分に攻撃を集中し、ハリコフを護るフランス軍を重囲下に置くことに成功したのだ。

 このままでは、ハリコフ及びその近郊にいるフランス第6軍の将兵約30万人が、ソ連軍の攻撃により、包囲殲滅されかねない。

 もし、そんなことになったら。


 普仏戦争のメスの戦い及びセダンの戦い並みのフランス軍の大敗になってしまう。

 そうなったら、自分の軍人としての生命は終わり、また、将来の政界進出はあり得ない話になる。

 そんな未来は、自分にとっては御免被る。

 それに、もう一つ、幕僚達には基本的に話せない問題がある。


 ここハリコフには寄りにもよって、フランス第一外人部隊師団もいたのだ。

 その中には、言うまでもなく。

 現在のブルボン=オルレアン家の家長、世が世ならフランス国王であるアンリ6世陛下。

 現在のボナパルト家の家長、世が世ならフランス皇帝であるナポレオン6世陛下。

 このお二方が所属されている。

 もし、このお二方がソ連軍の捕虜となっては。

 フランス国王、フランス皇帝が我々の捕虜となった、とソ連政府、軍が大宣伝をしかねない。

 そんなことになったら、フランス史に千年は遺る屈辱の歴史になってしまう。


 勿論、お二方とも、公式には別人の名を名乗られており、周囲の将兵にアンリ6世、ナポレオン6世とは知られてはいない筈なのだが、こういったことは、どこから情報が洩れているか、分かったものではない。

(秘密を護るために、ド=ゴール将軍自身の把握している限り、フランス第6軍司令部内で、この事を知っているのは、自分と参謀長の2人だけの筈だった。

 また、フランス第6軍全体でも、自分の両手の指の数で収まる人間しか知らない筈の話だった)


 何しろ、この世界大戦が起きる前まで、フランス国内では共産主義者が多数いたのだ。

 その細胞(セル)が、密かに生き延びていて、ソ連の諜報員として生きている可能性は否定できない。

 そして、その諜報員が、このお二方の存在を知り、ソ連政府、軍に情報を流したのではないか。


 ド=ゴール将軍は考えすぎだ、と考えたかったが、ソ連軍の手際の良さは、その疑いを深めるものとしか言いようが無かった。 


「ともかく、ここをパリだと思って死守するのだ。大丈夫だ。フランス軍は、我々を見捨てない」

 ド=ゴール将軍は、幕僚に命令を下し、更に想いを巡らせた。


 そうだ。

 ここには、フランス国王陛下とフランス皇帝陛下がおられるようなものだ。

 つまり、ここはフランスの首都と言って良い。

 そして、自分は国王陛下や皇帝陛下を護る近衛兵、親衛隊の長、兼首都防衛軍総司令官といえる。

 よし、お二方を護り抜き、フランス史にその名を遺すつもりで奮闘し、ハリコフを死守し抜いてみせようではないか。


 ド=ゴール将軍は、そう堅く決意した。

 そのド=ゴール将軍の姿を見た幕僚達も想った。

 将軍が、そこまで言われるのだ。

 我々も、ここを首都のつもりで護り抜いてみせる。

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