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第2章ー12

 そして、防須正秀少尉のように凍傷等を負い、師団病院に担ぎ込まれる例は、この1943年1月の戦闘の際には、日本海兵隊どころか、日本軍全体でも稀どころか多発している、と言ってもよい有様だった。

 また、米軍も大なり小なり、同じ状態だったと言っても過言では無かった。


 そうしたことから、石原莞爾提督や山下奉文将軍、パットン将軍のような猛将連が、幾ら切歯扼腕しようとも、1月25日に北部戦線に展開していたソ連軍の多くが、これ以上の攻勢を断念して、守勢に転じたからと言って、主に日米連合軍から成る連合国軍の北部軍集団が、すぐに本格的反攻に転じられる訳が無かった。


 勿論、全く連合国軍の北部軍集団が反攻を行わなかったということは無かった。

 フィンランド軍を中心に編成された遊撃隊により、モッティ戦術を応用した後方攻撃を、連合国軍の北部軍集団は実施しており、それにより軽視できない損害を、ソ連軍に2月以降に与えることに成功している。


 そうは言っても、この厳寒の中での戦闘は、連合国軍の北部軍集団の将兵にとって、苛酷極まりないと言っても良いものがあり、アイゼンハワー将軍や北白川宮成久王提督に言わせれば、

「ソ連軍が攻勢に出ないのなら、こちらも攻勢に出ずに、将兵を厳寒から守るべきだ。それによって、戦力を維持して、暖かくなった春以降の攻勢に、我々は賭けるべきだ」

 と主張させて、この1943年1月から2月に掛けて、結果的に連合国軍の北部軍集団の本格的な反攻は行われなかったのである。


 実際、アイゼンハワー将軍らの主張は、多くの日米連合軍の将兵の共感を呼ぶものだった。

「決して、自分達は戦闘を怖れるものではないが、この中で戦うのは避けたいものだな」

「こんな身体になって、つくづく自分もそう想います」

 2月初め、師団病院から間もなく退院予定になっている防須少尉を見舞った、土方勇中尉と防須少尉はそんな会話を交わしていた。

 

 防須少尉の指には、凍傷治療のための軟膏が塗られ、その上に保護の為の手袋が被せられている。

 一番上の手袋に至っては、完全なミトン形のもので、細かい作業は無理な有様だった。

「幸いなことに、指の深い部分の組織の壊死は避けられましたが、酷い水疱ができました。むずがゆくて堪らないのですが、水疱を破ると治療が遅くなる、と医師や看護婦に何度も叱られまして」

 それ以上は、防須少尉は口をつぐんだが、土方中尉は、その後の言葉を察した。

 防須少尉の本音としては、むずがゆさにどうにも耐えかねており、凍傷部分を思い切りかきむしって、水疱を破りたいのだ。

 だが、さすがに何度も注意されて、思わず破らないように手袋を被せられていては、幾ら防須少尉と言えども、そんなことはできはしない。


「医師や看護婦の言う事には逆らうな。自分も入院したから、気持ちは分かるがな」

 土方中尉としては、防須少尉に、そう言うしかなかった。

 

 ちなみに、現在、師団病院に入院している患者の過半数が、凍傷を何らかの形で負っている。

 その現実からすれば、連合国軍の北部軍集団が攻勢に転じるのは暖かくなってから、というのは自明の理としか、土方中尉には言いようが無かった。


「そう言えば、他の戦線の戦況は、どのような状況になっているのですかね。入院していると情報が入らなくて気になって」

 防須少尉は、気持ちを変えたくなり、土方中尉に他の戦線の話題を振った。


「うん。聞きたいのか」

「是非」

 土方中尉が答えると、防須少尉は即答した。

 土方中尉が、それとなく周囲に目を配ると、退屈だったのか、他の入院患者も耳を澄ませているようだ。

「それなら、自分がわかる範囲で話すか」

 土方中尉はそう言って、語り始めた。

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