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第2章ー11

 防須正秀少尉が、1月25日の深夜に大隊病院に担ぎ込まれてしまったのは、防須少尉自身の油断も無かったとは言わないが、どちらかというと不運が重なった結果だった。


 1月25日の日没頃、防須少尉は、ある故障した戦車の修理を依頼された。

 この頃、防須少尉の所属する車両整備班は、かなり前線に近いところにまで出張って、戦車等の修理を行っており、防須少尉が修理をしようとした戦車も、そう最前線から離れたところにあるとは言えなかった。

 だが、この頃には戦局が、日米連合軍側にかなり好転していたこともあり、その戦車を後方にまで運搬せずに、その場での修理が行われることになった。


 そして、最初の段階では、すぐに修理ができると見立てられていたのだが、予想外の所まで壊れており、修理には意外と手間取ることになった。

 だが、一度、取り掛かってしまった以上、今更、引き返す、というか、修理を取りやめて、問題の戦車を後方にまで運ぶのは躊躇われる話である。

 そうしたことから、半ば意地になって、防須少尉はもう一人の部下と修理を行って、日が変わる前には修理が完了すると見えてきていた。

 そこに、「夜の魔女」、ソ連空軍の夜間空襲があったのだ。


 空襲の規模は大したものでは無かった。

 Po-2が4機編隊で、夜間に爆弾を投下しただけである。

 最も、それが投下した爆弾の1発が、問題の戦車の近くで爆発し、防須少尉が、その振動で頭を戦車内で打ち、暫く意識を失ってしまったのが、大問題となった。

 悪いことに、細かい作業を戦車内でするために、手袋が1枚だけの状態で作業をしており、てがかじかんだら、すぐにわきの下に手を挟む等して、凍傷予防を心掛けていたところで失神したために、防須少尉の手指は凍傷になってしまったのだ。

(ちなみに部下は外で作業中で、大した怪我はしなかったが、空襲で慌ててしまい、防須少尉を暫く放置してしまった)


 もっとも、大隊病院に防須少尉が担ぎ込まれた理由は、主に頭を打って失神したためだった。

 何かあったら、衛生兵では対応できないとして、大隊病院で医師に診てもらえ、ということだったのだ。

 だが、斉藤雪子中尉が、防須少尉とやり取りをして、凍傷の危険に気づいた。


「暫く失神していた。その間の手は」

「手袋1枚でした」

「すぐに両手をお湯につけなさい」

 防須少尉とのやり取りで、斉藤中尉は顔色を変えて命じ、上原敏子看護上等兵にお湯を運ばせた。


 木製のたらいに少し熱めのお湯が入り、防須少尉は両手をつけたが、お湯に入れた瞬間に両手の指全てが猛犬に噛まれたような激痛に襲われて、うめく羽目になった。

「痛い」

「痛いなら、まだ何とかなる」

 防須少尉の愚痴を、半ば吐き捨てるような言葉で聞き流し、斉藤中尉は上原上等兵に、

「お湯が少しでも冷めかけたら、すぐにお湯をつぎ足しなさい。十二分に指先まで温まったら、お湯を拭って、師団病院にこの人を運ばないといけないわ。その際には、あなたが付いていき、状況を説明しなさい」

 と命じた。


「そんな状態なのですか」

「凍傷は、油断したらすぐに悪化して、指切断になるわ。指切断手術となると、師団病院でやるしかない」

 上原上等兵に、というより、防須少尉に事態の深刻さを覚らせるために、斉藤中尉はやり取りをした。

 実際、防須少尉は背筋が文字通り凍るような想いをした。

「分かりました」

 上原上等兵は、背筋を伸ばして返答した。


 そして、防須少尉は上原上等兵に付き添われて、師団病院にその後で向かうことになった。

 斉藤中尉の応急処置が間に合ったために、防須少尉は指切断という事態は何とか避けられたが、それでも全治約1月の中程度の凍傷をこの戦闘の際に負う羽目になった。

 指切断手術程度、大隊病院でも余裕でできる、と言われるかもしれませんが、私の調査では、師団病院でないと麻酔を行った上での指切断手術はできない、と考えました。

 もし、間違っていたら、私の不明を恥じ入るばかりです。


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