第2章ー4
ダイヤモンドダストが煌めく中での戦闘、というと幻想的な綺麗な戦闘のように思われそうである。
だが、実際に戦う兵士にしてみれば、ある意味、極寒地獄の中で敵弾のみならず、凍死の危険まで背負いながらの悪夢の戦闘に他ならなかった。
極低温の下での戦闘なので、戦車は容易に故障し、一旦、止まってしまったら、動かそうにも動かなくなることが、しばしば発生してしまった。
そして、金属でできたものに素手を始めとする肌が触れることは、当然のことながら、厳禁だった。
うっかり肌が触れれば、肌の表面にある水分が氷結してしまい、金属に固着してしまい、肌が剥けたり、肌の周囲が重度の凍傷になったりするリスクが、当然に起きるからだ。
こういった状況では、手袋でさえ綿製のモノは推奨されない。
綿製は水分を吸いやすく、凍結しやすいというリスクがあるからである。
そして、凍傷防止のために、手袋を一重ではなく、二重にするのが、兵士にすれば半ば当然の話だった。
また、銃の引き金等、一部の金属には予め薄い布を巻く等して、それぞれの兵士は、凍傷の危険を少しでも減らそうと試みることになった。
ともかく、そんな極寒地獄の中で、ソ連軍の兵士と米軍の兵士は激突した。
お互いに寒さに震え、それこそ吐く息や流した血が凍る中での地獄の戦闘だった。
米軍のエイブラムス大尉にしてみれば、こんな極寒の中でM3中戦車に搭乗して戦うこと等、正直に言って考えたくない事態だった。
勿論、軍人として、いかなる状況でも戦わねばならないことがあるのだ、というのは自分も観念的には分かっている。
だが、実際に戦うとなると別問題だった。
周囲の歩兵にしてみれば、戦車に搭乗して暖かい想いができるのだから、ぜい沢を言うな、と叩かれる考えだというのは、自分でも分かってはいる。
しかし、だからと言って、この状況は。
米国製の世界最高を自負する不凍液を使用している筈なのに、不良品が混じっていたのか、エンジンが動かない戦車が、指揮する戦車部隊の中から出ている。
いや、暖かさを求めたのだろうネズミが、いつの間にか戦車の中に潜り込んでいて、戦車の部品の一部をかじったことから、動かなくなってしまった戦車もいた。
(ちなみに、その不埒なネズミは、感電死していた。
自分で電気椅子に座ってしまって処刑されていた訳だ。
戦車に対する破壊工作員(?)に対しては、当然の刑罰だろう)
他の原因で動かなくなった戦車もある。
そんなことから本来なら18両いる筈の戦車中隊が、最初から12両しかいない。
かてて加えて、こちらのM3中戦車は未だに3人用砲塔を積んでいるとはいえ、57ミリ砲で忍んでいるのに、(自分が見る限りだが)あいつらのT-34中戦車は、76ミリ砲を積んでいる上に、新型の大型砲塔に切り替えている模様だ。
厄介だ。
あの強気でなるパットンの親父が、無理をするな、航空隊の支援を仰げ、自軍のみならず、友軍を当てにして、無理をせずに後退しろ、と後から付け加える訳だ。
最初から言ったのでは、臆病風に吹かれた、と言われかねないからだろうな。
そんな上官に対して失礼な想いが、エイブラムス大尉の脳裏をよぎったが、それは脳裏をよぎっただけで、実戦ではエイブラムス大尉率いる戦車中隊は、勇敢に戦った。
米軍を更に蹂躙しようとするソ連軍戦車部隊に対し、エイブラムス大尉率いる戦車中隊は果敢に応戦し、最終的には撤退したが、自らの戦車3両を失うのと引き換えに、ソ連軍戦車4両を破壊した。
エイブラムス大尉の働きは、ソ連軍の縦深攻撃の出端を挫く役割を果たした、と充分に認められるものだった。
とは言え、このままではソ連軍の攻勢は阻止できなかった。
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