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第2章ー2

 とは言え、この時期の攻勢は、ソ連軍だからこそ決断できた、というのも一面の真実だった。

 1月というロシア、ソ連全土が極寒に覆われる時期に軍隊を攻撃に投入するというのは、投入された軍人が凍傷や低体温症による被害を被るリスクが極めて高いモノだからである。

 勿論、ソ連軍といえど、そのリスクを勘案しなかった訳ではない。

 だが、相対的に考えれば、我がソ連軍の方が有利に戦えるとして、攻勢を決断したのだ。

 味方にとって不利でも、敵にとってより不利になるのならば、それを選ぶべきだ、という戦術、戦略の要諦をソ連軍は理解していたと言える。


 一方、これに対応する連合国軍の行動は、やや緩慢だった、と批判されても仕方のないものだった。

 勿論、過去のロシア史やソ連史から、ソ連軍が冬季反攻作戦を発動する、というリスクはあり得るものと考えられてはいた。

 しかし、だからと言って、自らの願望にすがっていた、と批判されるかもしれないが、ソ連軍が冬季の反攻作戦を展開するというのは困難ではないか、という希望的観測を念頭に置いて、ソ連軍の行動を当時の連合国軍首脳部の多くが、検討していた、というのも事実だった。


 日本の遣欧総軍参謀長を務める石原莞爾提督が、ソ連軍の反攻作戦発動がありうるのでは、と考えるようになったのは、半ば偶然の産物だった。

「寒い。欧州の冬が、こんなに寒いとは思わなかったです。海軍の従軍准看護婦に志願すれば、欧州等に只で行けるかも、という話を信じたのが間違いでした。それにしても産まれて初めて雪を見ます」

「全く、そんな美味い話がある訳ないでしょ。話は変わるけど、日本人なのに雪を見たことが無いの」

「私は沖縄産まれの沖縄育ちですから。ひめゆりじゃなかった、沖縄県立第一高等女学校に、本当は私は行きたかったのですが、家にお金がそんなに無くて、それに家族をある程度は養わないといけないこともあって、高等小学校を卒業した後、勉学して従軍准看護婦になったのです」

「成程ね、沖縄産まれの沖縄育ちなら、当たり前か。日本人なら雪を見たことが当然にあると思っていた」

 新しく日本から到着した従軍看護婦同士の会話が、石原提督の耳に、風に乗って届いた。


 石原提督は、その声が聞こえた瞬間は、微笑ましく思ったが、会話の内容を思い返して、癇に障るモノを何故か感じ、どこに感じたのかを考えてみた。

 当然に思うこと、さっきの会話の中にあった、日本人なら当然に雪を見たことがある、だが、それが間違っているということは、実際にあるものだ。

 沖縄は日本だが、亜熱帯と言える土地で、雪が降ったことが無い筈だ。

 だから、沖縄出身の従軍看護婦が雪を見たことが無いのは当然なのに、もう一人は当然見たことがあると思って会話をしていた。


 それと同様に。

 そう、この極寒の時期に攻勢を執ることは基本的にはあり得ない、それが当然に思える、だが、それが間違った考えだったら、そして、それを念頭に置いて、情報を分析していたら、必然的に。


 実際、これまでの海兵隊の戦歴を考えてみても、やらかした、その寸前になった事があるではないか。

 日露戦争時、営口での勝利で半ばかき消されてしまったが、黒溝台の苦戦はこの厳冬にロシア軍の攻勢はあり得ない、という先入観から生じたものではないか。

 また、チロル=カポレットの戦いでも、あり得ないと半ば最初は思われていたが、歴戦の勘、嗅覚が海兵隊を救ったと言っても良い。


 今のところ、ソ連軍の反攻計画と言っても、精々が師団規模と推定される、という情報ばかりだ。

 我々も動きたくない、という口に出せない内心の想いが、その情報分析を助長していないだろうか。

 石原提督は動き始めた。

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